それよりも驚いたのは若者たちの人数だった。仕事が休みの日曜日、しかもズフル(昼過ぎの礼拝)の直前であるためだが、階段やあちこちの部屋から、陽気なインドネシア人がワラワラと出てくるのだ。
「ガラム、ほしーですかー?」
1階のガレージでは、数人が集まって唐辛子をすりつぶしていた。スマホを構えて「TikTok撮るよ」と言うと、「いーですよー」と快諾の声が上がる(若い外国人を取材するときは「TikTokを撮る」と言えば気軽に動画を撮らせてくれるのだ)。
さらに裏庭のほうには、タバコを吸いながらだべっている大勢の若者がいる。「技能実習生?」と尋ねると、ほぼ全員が「はーい」と答えた。働き先は建設業界である。
「ガラム、ほしーですかー?」「ガラム、すきですかー?」
ガラムはインドネシアを代表する、タール量が15~42mgといういかついタバコだ。私は過去3年ほど禁煙しているが、ここは吸うべき場面だろう。くわえたガラムにライターで着火してもらうと、モルッカ諸島の丁香が染みたタバコ葉がパチパチと爆(は)ぜ、甘い香りが広がった。
ガラムをふかしながら話を聞いてみると、彼らの大部分は西ジャワ州の出身者たちで、一部はスマトラ島の最南端のランプン州から。来日わずか2週間という人も多くいた。まだ実習先の企業に配属されず、監理団体で研修を受ける日々のなか、休日にみんなで能登川モスクまで遊びに来たらしい。
メッカは能登川西小から約9000km向こうに
やがて全員が2階に移動し、礼拝がはじまった。ここから見た場合、ちどり幼児園と能登川西小学校の間くらいの方角に、そのまま9000kmほど進むと聖地メッカに到達する模様だ。
この日、昼過ぎの礼拝の参加者は30~40人ほどで、すべてインドネシア人だった。さっきまで騒がしかった技能実習生たちも神妙に祈りを捧げている。ソンコック(マレー人のムスリムが好む帽子)やサロン(腰布)を身に着けた人も多かった。