“レベル99の異国飯”がめっちゃ美味い
礼拝が終わると、3階に移動して昼食だ。青いビニールシートの床の上に、透明なビニールをもう1枚敷き、そのうえに無造作に置いたライスとおかずを手で食べる。テーブルはおろか食器すら一切使わない、本物のインドネシア式の食事だ。
サンバルソース(さきほどの唐辛子ペースト)を指でつまみ、プルクデル・マナド(インドネシア風かき揚げ)やテンペ(大豆の発酵食品)や鶏皮の唐揚げにくっつけて口に運ぶ。辛すぎたときは菜っ葉をむさぼり、指先でライスを丸めてつまむ。箸やフォークを使うよりも、手のほうが調味料や食材の量を調整しやすいことを知った。実は料理というものは、こうやって食べるのがいちばん美味いのではないか。
「ところで、ここのモスクって、どこかの系統に属していますか? たとえば〇〇とか……?」
「えっ、ちがうちがう! うち、どこの系統でもないです。それに〇〇はめっちゃ厳しいから、絶対にちがいます」
食事を摂りながら、モスクの運営関係者の1人である中年のインドネシア人男性に、なにげなさを装って尋ねたところ、ちょっと慌てた様子でそんな返事がきた。
インドネシア人、気楽なのがいいです。
日本国内のモスクは、東京都の大塚マスジドを中心に展開するジャパン・イスラミック・トラストの系統、行徳や浅草などのモスクが属するイスラミック・サークル・オブ・ジャパンの系統、大学の留学生を中心に作られた留学生系、どこにも属さない独立系……など、うっすらと種類がある。教義を実践する方向性や信徒の国籍・民族・社会的立場によって、すこし性質が違うのだ。
私が挙げた〇〇は、19世紀なかばに北インドで生まれた強力なイスラム復興運動の(つまり「めっちゃ厳しい」)一派から生まれた布教団体で、日本国内にもその系統のモスクがある。かつて1990年代なかばにタリバンの母体となったのは、パキスタンにあるその一派の神学校だった。拠点は南アジアとはいえ、インドネシアにも進出しているはずだ。
「〇〇ですか……。あそこは厳しい。私たち、インドネシア人、もっと気楽なのがいいです」
「もちろんモスクなので誰が来てもいいですけど、ここはインドネシア人が多いから、モスクの運営に他の国の人が入るのは、正直、ちょっといや。めんどくさいことになります。前に愛知県のモスクで、運営に日本人のムスリムが入ったら、すごく真面目にやるからインドネシア人が困ったみたいで……」
めっちゃゆるい。能登川アンヌルモスクは、おそらくあまり厳格なタイプのモスクではないだろうと想像していたが、複数の当事者からもそれを明確に確認できて大いに安心した。