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「対局者が頼まれるものは、ものすごく売れるんですよ」

 将棋は藤井先手でシリーズ4局続けて相掛かりに。前例が多い戦型とあって局面の進行が早い。

 着物は藤井が白、出口が青で、色合いがとても素晴らしい。着付けに来ていた白瀧呉服店の白瀧佐太郎さんにお話をうかがった。

「両対局者のものは色やデザインの希望を伺って、わたくしどもで仕立てさせていただきました。出口さんは『濃藍』でグラデーションをかけています。出口さんは和服の着付けの飲み込みが速くて、ほとんど一人で着られるんですよ。

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 藤井さんの色の表現は難しいのですが『月白』(月の光を思わせる薄い青みを含む白)です。藤井さんは本当は渋い色が好みなのですが、若々しさを表現したかったのでこの色にしました。藤井さんはもう一人で着こなせるので手伝っていません」

柏の葉キャンパスで初めてのタイトル戦が行われた ©文藝春秋

 叡王戦スポンサーの不二家さんにもお話をうかがう。

「対局者へのおやつは、工場から直送して新鮮なものをお出ししています。対局者が頼まれるものは、ものすごく売れるんですよ」

 大盤解説会にもお菓子セットを提供していただいた。将棋界を支えてくださる企業が増えてきて本当に嬉しい。

藤井が得意とする戦場で攻めの積極策

 出口は、第1局、第2局の指し直し局では自ら横歩を取る積極策を選んだが、本局では逆に歩を取らせる1歩損作戦に誘導した。藤井と豊島将之九段との間で繰り広げられた2021年の「夏の十二番勝負」において、決着局となった叡王戦第5局、王位戦第5局と同じ戦型だ。藤井は過去4戦全勝と負けたことがない。藤井が得意とする戦場に出口はあえて飛び込んだ。

歴代叡王として初のタイトル防衛がかかる藤井聡太叡王(写真提供:日本将棋連盟)

 出口は雁木にして、手得を金銀の盛り上がりに変換する。対して藤井は玉を右辺に寄り、出口が桂を跳ねて右辺での仕掛けを狙うと、またもとの位置に戻る。奇妙な玉の動きだが、永瀬拓矢王座が豊島相手に指しており、出口も想定内だ。出口は46手目に前例から手を変えた。角を引き、銀を進出させ、角金交換して攻める。

挑戦者の出口若武六段(写真提供:日本将棋連盟)

 出口が色紙に揮毫する「進取果敢」(みずから進んで積極的に事をなし、決断力が強く大胆に突き進む)の言葉どおり、攻めて活路を見出そうとした。藤井は持ち駒を投入して飛車を捕獲し飛車角交換に。