全編英語詞でグローバルスターに
方向性が変わるのは、ブレイクした2015年の「花様年華」シリーズ(三部作)あたりからだ。大ヒットした「I NEED U」(2015年4月)からは、いわゆる「アイドル」としての認知を強めていく。そこからは、ヒップホップグループとしてのアイデンティティを維持しながらも、マスにリーチするためのチャレンジを繰り広げてきたようにも見える。
その後、「DNA」(2017年9月)、「FAKE LOVE」(2018年5月)、「Boy With Luv feat. Halsey」(2019年4月)、「ON」(2020年2月)と、BTSは着実に人気を拡大させていった。その次に予定していたのは、2020年4月から9月にかけて世界18都市で開催するワールドツアーだった。
が、そこに待ち受けていたのが新型コロナウイルスのパンデミックだ。これによってツアーも中止となり、グローバルの頂点に登る寸前でその道を絶たれてしまった印象もあった。
その状況を打開したのが全編英語詞の「Dynamite」(2020年8月)だ。世界がウイルスの暗闇に覆われていたなか、ノリのいいこのディスコファンクは世界を明るく照らした。Billboardチャート・Hot100ではじめて全米トップに立ち、翌2021年6月に「Butter」、7月に「Permission To Dance」でもチャートの首位に躍り出た。
K-POPとしてもアジア人としても前例のない活躍だったが、RMはこの過程で悩みを深めていたと話す。
「『ON』、『Dynamite』までは、グループが自分たちの手の上にあったような感じだったけど、その後『Butter』、『Permission to Dance』を出して、どのようなグループなのか分からなくなった」(『BANGTANTV』2022年6月14日)
この発言には思い当たる点も少なくない。とくに「Permission to Dance」は、それまでのBTSとはかけ離れた楽曲だった。
エド・シーランが手掛けたダンスについて歌ったこの曲は、リズムよりも独特のメロディを優先するポップスだ。もはやヒップホップでもファンクでもない。曲自体の良し悪しはともかく、グループとしてのBTSの文脈がこれによってかなり不明瞭になったことも納得できる。
このようにRMはBTSのアイデンティティの揺らぎに言及し、そしてこの後に続くのが、冒頭で紹介したアイドルやK-POPシステムへの疑問だった。