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〈僕は20歳のとき、体を壊した。二段に4年いたとき。胸が痛くなって、神経衰弱なんだね。盤の前に座っていられなくって、本当に死ぬんじゃないかと思った。どうせ死ぬなら独りで死のうと思って一人暮らしを始めたんだ。15のときから不良だった。めちゃくちゃ勉強したけど、悪い遊びもした。それで夜の生活から昼の生活に変えようと思って、ウエートトレーニングを始めたんだ。

(中略)

(20歳からの10年間、毎日3時間トレーニングしたことについて)いま思えば、その時間を将棋の勉強の時間に当てればよかったんだけど、健康にはなった。ただのアホですよ。肉食って牛乳飲んで、ロースはだめ、ヒレを食べろって。僕は金がないから、牛乳とポテトチップで肉をつけた。それに丸ちゃんも付き合った。丸ちゃんのささやかな青春だと思う。丸ちゃんはいまでも自分と向き合うためにトレーニングを続けている。将棋のためなんですよ〉

渡辺五段の師匠・豊川孝弘七段 ©白澤正/文藝春秋

将棋で生きていかなきゃいけないプレッシャー

渡辺 この話は初めて知りました。僕は師匠の将棋に向かう姿勢をリスペクトしています。「荻窪」で棋譜をバシバシ並べている姿は迫力がありますし、三段リーグの前日に同じ持ち時間で2局指していたと聞いたときは驚きました。奨励会のときは移動中にひたすら詰将棋を解いていたそうなので、それを聞いてからずっと続けています。筋トレは、お腹が出てきたらやるかもしれません(笑)。

――プロになり、プレッシャーから解放されて指せるようになりましたか。

渡辺 四段になってからのほうがモチベーションは高いと思います。三段リーグは順位戦に近くて、極限状態になっちゃう人も多いですからね。

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 でも変な話、棋士だから将棋で生きていかなきゃいけないので、プレッシャーはあります。順位戦以外はトーナメントなので、勝たないと対局がなくなってしまいます。将棋を指すのは好きなので、それはつらいです。

 

長編の詰将棋などで読みの力を深める勉強

――将棋の勉強法や質は変わりましたか。

渡辺 目の前の一局に勝つための勉強を増やすようになりました。棋譜データベースで対戦相手の情報を集めやすいですし、現れそうな課題局面を精査しています。また、棋士になってから逆転勝ちが減りました。自分が得意の終盤になっても、長い持ち時間だと落ち着いて対応されてしまいます。なので、序中盤で遅れを取れないようにするのがいまの目標です。

 実は三段リーグで、相手の対策はあまり立てず、ソフトもあんまり使っていませんでした。最新形の研究だけに偏らないように、長編の詰将棋などで読みの力を深める勉強を意識していたので。