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「このままでは危ない」恐怖のあまり耳を塞ぎ…「究極の心霊スポット」に取り残された男性は何を聞いてしまったのか

「このままでは危ない」恐怖のあまり耳を塞ぎ…「究極の心霊スポット」に取り残された男性は何を聞いてしまったのか

怪談和尚の京都怪奇譚 宿縁の道篇――「究極の心霊スポット」

2022/08/04

genre : エンタメ, 読書

note

暗闇の中で気付いた異変

 何となく寂しげな境内で、私は一人、置いてあった長椅子に座り、しばらく時の経つのを待ちました。この日は風もなく、木々の揺らぐ音すらしません。広い境内はまるで時間が止まってしまっているような感覚にさえなりました。いつのまにか私は椅子に座ったまますっかり寝入ってしまいました。

 目を覚まして周りを見ると、本堂が満月に照らされて、不気味に浮かび上がって見えました。スマホの時計を見ると、驚くべき事に、時間は夜の10時でした。境内の椅子に座って、5時間近く寝ていた事になります。そんな馬鹿なと現実を受け入れられずにいましたが、事実そうなっている以上、これが現実なのは間違いありません。

 一瞬、龍神池に向かおうとも思いましたが、先程の林道の方を見ると、真っ暗なトンネルの様になっており、流石の私もそこに向かう勇気は出ませんでした。取り敢えず宿に戻ろう。そう思って山を下り始めました。幸い満月だったので比較的道は明るく、スマホのライトだけで十分に道を下って進むことが出来ます。

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写真はイメージです ©iStock.com

 少し早歩きで山を下っていると、自分が地面を蹴る音だけが「ザッザッザッ」と辺りに響きます。そしてその音が周りの木々に当たって、山彦のように返ってきます。只々、その音だけを聞いていると、自分一人が歩いているのではなく、複数の人が一緒に歩いている様な錯覚に陥ります。そこで一度立ち止まり、地面を蹴るのを止めると、あたり前ですが音は聞こえなくなりました。

 やはり自分一人しかいない。そう確認して、再び歩き始めます。すると再び沢山の足音がこだまして聞こえてきます。音の正体は分かっているのに、たった一人で山道を歩いていると、不気味に聞こえてなりません。そしてこの状態が長く続くと、実際に背後や周りに人の気配がするように思えたのです。

 早く宿に帰りたい。私は今までかなりの数の心霊スポットに行きましたが、これ程帰りたいと感じた事はありませんでした。只々、坂道を止まる事なく歩き続けました。

分かれ道に差し掛かり…

 暫く歩くと、道が二手に分かれている場所に差し掛かりました。登りは上をひたすら目指していたので全く気がつきませんでしたが、どうやら分かれ道があった様です。

 私は長く立ち止まっているのが嫌で、取り敢えず片方の道を選んで歩き始めました。山の高い方から下っているのだから、仮に宿へ行く道でなかったとしても、下には人里があるだろうと、再びひたすらに歩きました。