1ページ目から読む
4/6ページ目

 まだ宿の光も見えない。やはり先程の分かれ道で違う道を選んでしまったのか。私は立ち止まり背後を振り返りました。先程まで明るく照らしてくれていた月の明かりも翳り、背後には真っ暗な闇しかありませんでした。何があろうとこのまま進もう。仮に間違っていたとしても道があるのだからゴールがあるはずだ。そう思い、ひたすらに見えないゴールへと向かう事にしました。

 程なくして、下り坂だった道は平坦な道へと変わり、私は一人、見えないゴールに到着しました。そして、スマホのライトを向けると、長方形の石が、規則正しく列を作って並んでいるのが見えました。

「ハハハハハ」思わず私は声を出して笑ってしまいました。うっかり境内の椅子で寝てしまった事、二つに一つの選択を間違えた事、何か自分が悪い方へ悪い方へと進んでいくのが滑稽に思えて、可笑しくなってきたのです。

ADVERTISEMENT

写真はイメージです ©iStock.com

 人間は絶望を感じた時、思わず笑い出してしまうことがあります。これはもしかすると、苦しみを和らげる為に、人間の本能に刷り込まれたものかもしれません。

 笑っている自分の声も周りの木々にこだまして、複数の笑い声として返って来ました。その声が耳に届いた瞬間、私は再び言い知れぬ恐怖を感じました。

「ここから離れなければ」そう思いました。すぐに今きた道を引き返す事にしました。真っ暗闇に飛び込む以外に、この恐怖から逃れる術はなかったのです。

 暗闇の道を引き返そうと歩き始めて、ふと気が付いたのですが、スマホの電池の残りを示すマークが赤く表示され始めたのです。この状況で唯一の明かりを失うことは、まるで命を失う事だとさえ思いました。

背後から聞こえる奇妙な音

 私は走り出しました。明かりがなくなる前に、せめて二手に分かれた道までは行きたいと思ったのです。

「タッタッタッタッタ」走るその音は、再び大勢の人の気配を感じさせるものとなって聞こえて来ます。後どのくらいで二股の道に辿り着けるのか。恐らくもうそれほど距離はないはずだ。しかし、一向に二股の道まで辿り着けません。おかしい、明らかにおかしい。もうとっくに着いているはずなのに。

 走り続けていましたが、やがて体力の限界が来て歩く事にしました。

「ザッザッザッ」また自分の歩く足音が、こだまして耳に聞こえて来ます。せめて足音だけでも消えて欲しい。そう思ったその時でした。

「ザッザッザッザッザッ」自分の歩く音に重なって、明らかにおかしな音がするのです。