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「生まれて5カ月目の赤ちゃんにビバルディの協奏曲がわかる」

 昨年、鈴木先生の才能教育幼児学園で卒業生全員の知能テストをしたら、IQが最高186、最低94、平均146という驚くべき結果を示した。

 これは、特別いい子を選んで入園させたのでは決してない。

 もう一つ驚くべきことは、ベルリン放送交響楽団をはじめとするチェコスロバキア、オクラホマ、ケベック、バンベルグなど、世界各地の有名オーケストラのコンサートマスターが、いずれも30代の日本人で、それも全部、鈴木先生の息のかかっている人たちであることである。中でも有名なのは、先月一時帰国して、その訴えるような崇高な演奏で感動させた豊田耕児さんである。彼は3歳以前から鈴木先生が、心身ともに手塩にかけて育てた傑作第一号である。

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 耕児さんは、日本では木曾の中学校を卒業しただけで、フランス留学生試験にパス、パリ音楽院をたった半年で卒業し、以後ヨーロッパで多くの国際音楽コンクールに入賞し、7年前わずか29歳でベルリン放送交響楽団の主席コンサートマスターに全員一致で選ばれた。今日もこれを続け、同時に独奏者としても大変貴重な存在となっている。

 コンサートマスターという仕事は、単にバイオリンの演奏が巧みでありさえすればよいというものではない。指揮者とオーケストラの全楽員の間に入って調整しまとめていく力と人柄がなければならない。

 楽団員といえば、きびしくやかましい芸術家のグループ、しかも多分、名人かたぎの老人も多いことであろうが、その中で、なんで異国の日本人がこんなむずかしい役に選ばれているのだろうか。これは、鈴木メソードが技術だけでなく、人間形成にも大変に役立っている証拠であるような気がする。

©iStock.com

 その他、私は鈴木先生の教育を受けた若い人たちで、今はまったくバイオリンから離れた人たちをたくさん知っているが、不思議なことに好感の持てる、人柄の良い、しかも、できる人がたいへん多い。鈴木教室の母親の意見によると、たいていがり勉によらず、楽々と上の、いわゆる“いい学校”に入り、卒業している人たちが多く、共通していえることは、秀才づらをしていないということである。

 これは、ひょっとするとたいへんなことが潜(ひそ)んでいるのではないだろうか。

 どうもこれは、バイオリンの弦をおさえ、弓を使い、正しい音程のきれいな音を出すというたいへん複雑な、高度な訓練が、3歳、4歳という早い時期に脳をうまく刺激して良い発達を促すからではないだろうか。

 そうして発達した知能と、練習を通じて身についた集中力とが、学校に進んでからも家庭学習を不要にし、遊ぶ余裕を与え、それが統率力にまでつながっているのではないだろうか。

©文藝春秋

 次に、これも、鈴木先生の17年前の実験の話である。「生まれて5カ月目(5年ではない)の赤ちゃんにビバルディの協奏曲がわかる」とあるお母さんにいわれて、先生はこんな実験を始められた。

 ほかの曲をひきながら、ごく自然にビバルディの協奏曲に移っていく。移るやいなや、その赤ちゃんの表情はさっと変わり、ニッコリお母さんの方をふりかえって、安心したような顔をする。何回やっても同じような結果が得られたそうである。

 この赤ちゃん、木内裕美ちゃんの6歳になるお姉さんは、鈴木先生のお弟子さんで、そのころ、このビバルディの協奏曲を毎日毎日ひき続け、毎日レコードをきいていた。したがって裕美ちゃんは生まれた瞬間から、この曲をきかされていたわけである。

 10年たって、この裕美ちゃんから、先生のところへ一つの楽譜が送られてきた。それは、全国小中学校作詞作曲コンクールに1位で入選した彼女の傑作だったそうである。

 もう一つ、最近私がある記者から聞いた話。その人は結婚祝いに友達からシューベルトの「美しき水車小屋の娘」のレコードをもらった。やがて赤ちゃんが生まれたが、持っていたのはそのレコード1枚だけ。その赤ちゃんは、そのレコードだけをきいて育った。数カ月後、その赤ちゃんは、どんなにむずかっていても、その「水車小屋の娘」さえかけてやれば、おとなしく寝つくようになったそうである。

 こういう例は、読者のまわりにも、いくらでもあることだろう。

 われわれは、1歳にもならない赤ちゃんがビバルディがわかり、シューベルトを知っているという現実に驚かずにはいられない。