「ここで何をしてるの」と問われ…
その男性は、車の方へゆっくりと近付いて来ます。運転席の窓の横まで来たので、僕は少し窓を開け、こちらから声を掛けました。
「すみません。ご迷惑でしたか」
男性は、眉間に皺を作りながら、口を尖らせます。
「こんな時間に、こんな所に車を停めてもらったら困るなあ。人や他の車も通ったりするから困るなあ」
反論の余地などありません。注意をされたわけですが、僕は久しぶりに人と話が出来たような感覚で、むしろ嬉しく感じました。
「すみません。それでは下の駐車場まで車を下げます」
「ここで何をしてるの」
「友人が山に入ってまして……」
「こんな時間に入ると駄目なのに」
「すみません。恐らく、あと10分くらいで戻ってくると思います」
「そう。それなら、10分くらいしたらまた上がってきなさい。それまで下の駐車場に停めておいてよ」
男性は車から離れていきました。
登山客の「不可解な質問」
僕はバックでゆっくりと駐車場まで戻り、10分ほどしてから再び登山口まで戻りました。友人達はまだ戻ってきていません。
遅いなあ、何かあったのかなあ……。心配しながら待っていると、再び男性が近付いて来ます。運転席の窓を開けて、声を掛けようとしたその時、はっとしました。さきほどの人とは別人だったのです。
こんな深夜、こんな山奥に、一体何人いるんだ?
目の前の男性は、さきほどの人よりは若そうで、緑色のリュックを背負ったいかにも登山者といった身なり。登山で有名な山らしいし、ひょっとしたら登山客でごった返しているのかもしれないな。
自分なりに納得して、一応、この人にも車を停めている理由を説明しようと思った矢先、男性の方から声を掛けられました。