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77年、運命の夏

「ファンの人はいい時のことを記憶していてつらい」沢村栄治が語った戦時下のアスリートの苦悩

「ファンの人はいい時のことを記憶していてつらい」沢村栄治が語った戦時下のアスリートの苦悩

特別対談・沢村栄治&笹崎僙 #2

note

沢村栄治が夢見ていた試合とは……

笹崎 今度自分が帰って来て、考えたことは野球を見ても相撲を見ても、協会という確乎たるものがありますが、拳闘にはそういう体系だったものがないのです。一時あったこともありますが、すぐ瓦解したりしまして……。ところが幸いつい最近になって警視庁の斡旋で協会が出来るような運びになって来たんです。

 それでその進行過程にあるんですが、それが早く出来て明朗な拳闘界になるよう心から切望しているしだいです。そういうものが出来て、選手の生活の安定とか、もし怪我をした場合の傷害保険の契約とかしてくれるようになると、安心して拳闘家として生活して行けると思います。

 そうすれば同時にプロモーターや審判の権威もさらに確乎たるものになるのですから、この際大乗的見地から、少しくらいの利害や面目を棄てて合同して明朗化を図ってくれるといいのですが……。

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沢村 そうですね。私達の方はしっかりした人がきちっとした制度の下にやってくれていますから、選手さえプレーをうまくやったらそれで良いのです。うまくならなければ駄目ですよ。戦地に行く前は学生野球とどっちがうまいかなんて言われたんですが、現在ではそういうことをいう人は少くなったのです。

 ただもう少し選手の疲労とかそういうものを考えてくれて、スケジュールを決めてくれたら良いと思います。そうすれば個人の技術もうまくなるだろうし、将来は日本だけで満足せずアメリカとやるのが理想ですからね。

※写真はイメージ ©iStock.com

笹崎 沢村さんの話で自分達も思うのですが、選手である以上はとにかく遮二無二強くなるということがいいのです。それがモットーですね。

――職業野球はうまくなりましたね。巨人軍なんか特に……。

沢村 結局今の巨人軍がリーグで二位と下らないというのは、以前にアメリカに行ったせいでしょう。それで向うのチームを見て本当の野球というものを掴んで来たんです。六大学ならピッチャーがうまかったら優勝しますが、私達はそれが出来ないのです。ピッチャーだけでなくチームの力というものが平均して行かなければならない。それが巨人軍はうまいのですよ。

 それは向うに行って長所を掴んで来たからです。それでいつやっても強いこともなければ弱いこともない。他のチームだったら馬鹿に調子のいい時もあるが、がたっと弱くなったりする。各チームとも巨人軍の良いところを掴んで、各チームともそうなったらずっと面白くなって行くんです。