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昇級を目指す以前に、降級点を取らないか不安だった

――次戦から全勝して昇級したわけですが、昇級を目標にされていたのですか。

田中 いえ、白玲戦の対戦表を受け取ったときに思ったのは「降級点をとらないように」でした。白玲戦D級は下位1/5に降級点が付き、たまると白玲戦に参加できなくなってしまいます。1/5は少なくないし、順位が一番下だから同じ勝ち数で並んだ時に不利。研究会などでお世話になっている奨励会員や師匠である大野八一雄七段の教室の関係者の方に「降級点を取らないか不安」と話しました。「女流棋士になったばかりなのに下の心配ばっかりしていてはダメだよ。大丈夫だよ」と励ましてもらいました。

 デビュー戦で負け、2戦目の清麗戦でも飯野愛女流初段に負け。このままではヤバイ、周りに心配をかけてしまう。3戦目が白玲戦の2局目の渡辺弥生女流初段戦で、これは私のほうが不利になっていた将棋を執念で逆転した感じです。片目が開いて安心しました。

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――白玲戦で昇級を意識したのはいつ頃ですか?

田中 初戦負けから5連勝して終盤に差し掛かった頃です。ファンの方や周囲の方から「白玲戦すごいですね、このまま勝って昇級してください」とか応援の言葉をかけてもらうようになりました。

 

「教えてください」と言えるようになった

――女流3級時代より勝てるようになった理由はなんでしょう。勉強法なども変えたのでしょうか。

田中 もともとソフト研究など1人で勉強できるタイプではなく実戦派です。女流2級になってからは奨励会員やアマ強豪、女流棋士の先輩に頭を下げて「教えてください」と積極的に言えるようになりました。奨励会員の方に「自分たちだって勉強のために頭を下げて教えてもらっているのだから、自分からいかないとダメだよ」と言われたことがあります。

 考えてみれば、強い人は私みたいな格下と指したいわけがない。自分からお願いして指していただき、序盤に詳しい方にはいろいろ教えていただきました。戦法も増やすことができ、将棋も楽しいと思うようになりました。教えていただいた皆さんには本当に感謝しています。関わる人が増えると、応援してくれる人も増える。「頑張ってください」とずいぶん背中を押してもらいました。

――実戦での勉強も増え、勝てるようになって、応援も増えと好循環だったわけですね。精神的にも余裕を持てたのでしょうか。

田中 男性の順位戦でも白玲戦でも昇級争いのプレッシャーはあり、昇級争いをしていた方が敗れてしまうことはあります。でも私の場合、負けて女流棋士資格を失う経験をしています。その人生を変える勝負のプレッシャーは過呼吸を起こしてしまうほどでした。それに比べたら、負けても女流棋士でいられる「昇級のプレッシャー」は大したことがない。前向きに考えることができたと思います。