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“2度目のプロデビュー”から順位戦昇級を果たした田中沙紀女流1級「人生を変える勝負のプレッシャーに比べれば…」

“2度目のプロデビュー”から順位戦昇級を果たした田中沙紀女流1級「人生を変える勝負のプレッシャーに比べれば…」

田中沙紀女流1級インタビュー #1

2022/09/03

田中 なるべく上のクラスで入会し、できれば短大卒業までに女流棋士になりたいという気持ちはあったものの、入会テストでは全敗に近い成績。絶望してサンダーバード(JR大阪駅と金沢駅を約3時間で結ぶ特急列車)で号泣しながら帰りました。E1入会でした。関西研修会には女流棋士を目指す年下の女の子が何人もいて、皆クラスは上でした。その1人には「まさか女流棋士目指しているの?」と聞かれたくらい、相当無理めに見えたのだと思います。

写真提供:LPSA

地元企業で働きながら、「土日は全部将棋」の生活

 すぐに女流棋士になれるわけはなさそうなので、就職活動もしました。履歴書を埋めるため簿記や秘書検定、WordやExcelの資格もとりましたし、忙しかったですね。

――短大卒業後は働きながら研修会に通っていたのですか?

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田中 はい。父が「ちゃんと正社員で働け」とうるさかったですし、地元の企業に就職しました。土日は将棋に使いたいから、土日休める会社という条件で就職先を探して。会社側から見れば転職活動みたいなものですから、女流棋士を目指して研修会に通っていることは内緒に。

 土日休める分、平日は残業が多かったです。本当は毎日将棋の勉強がしたい。でも、時間的に無理でした。その代わり、土日は全部将棋に使って遊んだりはしないと決めていました。それがずっと守れたのは自分でも偉いなと思っています。成人式にも行っていません。

 

――そんなに働きながら研修会で昇級していったのは凄いですね。

田中 我ながらよくC1にたどり着いたと思います。入社1年目は忙し過ぎて研修会で降級もしました。月に2回の日曜日は朝5時に家を出て研修会に行くわけですが、負けると余計疲れて月曜日に会社に行くのが辛かった。サンダーバードって風や雪でよく遅延するのです。帰れなくて明日会社に行けなかったらどうしようと心配していました。実際に会社を休む羽目になったことはなかったのですが。

 入社2年目に残業が少なめではあるものの、通勤が片道1時間かかる営業所に異動になり、それも大変でした。ただ、だんだんペースはつかめて昇級できるようになりました。

――通勤時間に将棋の勉強をされたり?

田中 いえ、田舎ですから車です。自分で運転して通勤していました。やはり土曜日は教室に行ったりして一日中将棋の勉強、研修会のない日曜日は大会に出ていました。リコー杯の西日本のアマ予選で勝ち上がって女流プロ棋戦に出場できたり、少しずつ大会の実績も増えてきました。

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