女流3級としてプロデビューしても、その後の2年間で女流2級に昇級しなければ女流棋士資格を失うという規定がかつて存在した。女流3級はいわば“仮免許”に当たるというわけだ。この規定に苦しめられたのが田中沙紀女流1級だ。

 インタビュー後半では異例となった研修会再入会、LPSAへの所属、そして今後の抱負について聞いてみた。

田中沙紀(たなか・さき)女流1級
石川県金沢市出身。1994年11月18日生まれ。大野八一雄七段門下。2018年に関西研修会でC1に昇級し日本将棋連盟所属の女流3級。2年間で女流2級に昇級するという当時の規定をクリアできずに、2020年に女流棋士資格を失う。同年東海研修会入り。2021年8月にB2に昇級し、9月にLPSA所属の女流2級に。2022年に白玲戦C級昇級により女流1級

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再挑戦へと導いてくれた加藤圭女流二段の説得

――2020年の8月25日の対局で負けて女流棋士資格を失い、一度は、女流棋士は諦めて別の道に進もうとされていたと他の記事で読みました。

田中 最後のチャンスだった対局に負けた後、将棋連盟から「研修会に再入会するか」の意思確認があり、私は「研修会には戻りません」と答えました。1年間暮らした東京を引き揚げる準備をしつつ、お世話になった方に挨拶回りをしました。御徒町の道場では、ずいぶん良くしてくれた席主さんからお別れの品をいただきました。先輩の女流棋士には食事に連れて行ってくれる方もいて「私だったら再挑戦するけどね」と言われたりもしました。

 そして、大野八一雄七段の教室に行ったとき、加藤圭女流二段に、再挑戦するように説得されたのです。圭さんと会うのは、最後の対局で「ダメでした」と答えた日以来でした。

――どのように説得されたのですか。

田中 再挑戦しないと決めた私は、女流棋士があまりしないマニキュアも塗っていました。挨拶だけのつもりだったのに、圭さんは私の隣にきて「半年研修会でやってみて、ダメだったらそのときに諦めたらいいんじゃない」と説得を始めました。将棋を指すつもりもなかったのに「先生、田中さんやる気になったそうです」なんて圭さんに言われてしまい、大野先生と一局指しました。教室の方には「この先おばあちゃんになった時に、後悔しない道を選んだほうがいい」と言われました。「うううーん」という感じで、すぐに「再挑戦します」とは言えませんでしたが、考えてみようという気持ちが芽生えました。

 私だったら、成績が悪くて女流棋士2級になれなくて、27歳未満の年齢制限まであまり時間もない人に「再挑戦しよう」なんて言えません。圭さんの説得があって今がある。感謝の気持ちでいっぱいです。