夏休み最後の思い出に、デパートへ
Fくんは矢継ぎ早にこの話の不可解な点を語り出した。
「そもそも『黒いボストンバッグ』って指定してあるのもおかしくない? 普通こういう注意書きなら『不審物』とか『落し物』とか書くじゃん」
言われてみれば妙である。バッグの種類、しかも色まで指定してあるのは、具体的にその“黒いボストンバッグ”が何回も目撃されている、ということなのか。
「“黒いボストンバッグ”を持った不審者が何回も現れるとか、そういう話じゃなくて?」
「なんか、不審者とかそういう話は貼り紙には書いてなかったって。なんか、“ボストンバッグに口がついてる”みたいな噂もあるらしいけど……」
「それはさすがにないわ~」
「いや、俺もそう思ったんだけどさ。なんか、貼り紙の部分は妙にリアリティあって怖くない?」
「確かにマジな感じあるね……」
ここまで黙って聞いていたKくんが口を開いた。
「気になるな、この話」
「じゃあさ、明日行ってみない? 高1の夏休み最後の思い出って感じでさ」
日差しが照りつける夏の正午頃、Tくん、Fくん、Kくんの3人は、最寄りの駅前に集まった。
「こんな日が出てる時間に行かなくてもいいだろ……アチーよ」
「いやいや、夕方とか夜行くと呪われやすそうだろうが」
「時間関係あんのか、呪いって。そもそも呪われるかすらわかんねーから」
気の合う仲間同士で妙な探検気分になったのは、高校生の彼らをどこか童心に帰らせるような噂話に高揚していたからだろう。
電車は目的の駅に到着。駅前は地元よりも人通りが多く賑わっている。こんなところに寂れたデパートなんてあるのか、そう思わせるほどだった。