「なんか寒いし、嫌な感じで…‥」
噂を聞いたFくんの案内で歩き出した一行。しばらく歩いていくとスッと人通りは少なくなり、気がつくと大きなデパートの前に着いていた。
「ここか……」
「ちょっと緊張するな」
「まあ、普通のデパートって感じだけどな。古臭いといえば、古臭いけど」
手動のガラス戸を押し開けると、少しカビ臭い冷気が体を包んだ。
「あー、涼しい……」
「なんか、昭和のデパートって感じだな」
「……人、全然いねえな」
Kくんが言ったとおり、日曜日の真っ昼間だというのに、そのデパートはかなり閑散としていた。宝石や化粧品を売っている1階すら電光パネルの電源は落とされ、店員の数もまばら、客は高齢の女性が1人ポツンと歩いているだけだ。有線の曲が虚しくフロアに響いていた。
「で、その貼り紙はこの階にあんの?」
静かなフロアに響いたTくんの声に、店員が反応してパッと目線を向ける。
「いや、3階か4階だったと思う」
Fくんは声を落として答える。
ゴンゴンゴンゴン……。
古びてはいるが豪華な造りのエスカレーターに乗りながら、Tくんが言った。
「3階だ。降りるぞ」
紳士服の売り場のようだったが、1階にもまして人の気配がない。テナントの多くが撤退したのか、簡易的なパーテーションやカーテンで売り場が仕切られており、フロアの奥のほうは明かりも消されている。シーンとした雰囲気と低い温度に設定されている館内の冷房に、一同はブルッと身震いした。
「こりゃ長くないな、このデパート」
「もう少し人気のある場所を想像してたけど、マジでつぶれる寸前って感じだな。なんか寒いし、嫌な感じで……」
「おい!」
TくんとFくんの会話を遮るように、2人の後ろにいたKくんが声をあげた。
「これじゃないの?」