ちょうど二十年前の一九九七年、時代劇史上に偉大な足跡を遺した三人のスターが相次いで亡くなった。三月に萬屋錦之介、六月に勝新太郎、十二月に三船敏郎。そこで今回は彼らを偲ぶべく、三人が共演した唯一の時代劇映画『待ち伏せ』を取り上げる。
一九五〇年代から六〇年代にかけて、大手邦画各社は「五社協定」を結び、それぞれの専属役者やスタッフの引き抜きを禁じていた。そのため、各社のスターたちが共演する機会はまずなかった。が、六〇年代に映画が斜陽化すると状況は変わる。東宝から三船、日活から石原裕次郎、大映から勝、東映から錦之介、それぞれの事情を背景にスターたちは続けて独立、各々にプロダクションを作って映画製作を始めたのだ。そして、彼らは「夢の共演」を果たし、本作で四大スターはついに一堂に顔を揃えることになった。
舞台となるのは信州のとある峠の茶屋。ここに、謎の密命を帯びた素浪人(三船)、故郷に帰る途中の渡世人(石原)、悪党を捕まえる際に傷を負った同心(錦之介)が次々と訪れる。これに、茶屋になぜか居座る医者くずれ(勝)と暴力的な夫から逃れて茶屋で働く女(浅丘ルリ子)が加わり、狭い中に豪華な面々が居並ぶ空間ができあがる。
物語は後半になるまでなかなか動かない。その分、スターたちの芝居をじっくりと堪能できる構成になっている。面白いのは、「御馴染の素浪人」姿の三船を除いた三人が、「スター」のイメージから離れた役を演じていることだ。
そもそも時代劇に出ること自体が珍しい上に、飄々とした渡世人を軽妙に演じた裕次郎もそうだが、それ以上に印象深いのは勝と錦之介だ。
勝の演じる役は実は盗賊の頭という設定なのだが、序盤のミステリアスな雰囲気から段々と凶暴な本性を露わにしていく様が強烈で、全身から野性味と狂気をほとばしらせながら「悪」を徹底的に演じる。一方の錦之介は、とにかく心身ともに弱い。悪党との戦いで傷を負って満足に動けない上に、なかなか口を割らない悪党にヒステリックに怒り出したかと思えば、勝が悪の本性を出した時は力なく顔をそむける。最後に見せ場はあるものの、この時も袴の裾をひっかけて転ぶという情けなさ――。今回は三船プロダクションの製作というのもあり、それぞれが三船をカッコよく盛り立てるために「脇」としての役割を全うしているのである。そして、それを受けて三船は最後まで見事なヒーローぶりを見せつける。
スターだからといって我を張り合わず、チームプレーで映画界の難局に向かう。そんな想いが伝わってくる作品だ。