殺す相手は若いほうがいいと言う理由
聡 まだ痛んでないからかも。
聡くんに、話の内容は伝えないと約束して、母親にも来てもらうことにしました。母親から、幼少期の聡くんの様子や、家族関係について聞かせてもらいたかったからです。聡くんは幼稚園に入った頃から、電車やバスの路線図に興味を示し、長い時間眺めていたり、覚えたことを紙に書いたりして過ごしていたとのことです。
母親 おとなしい子でした。そうやって1人で遊んでましたから、ほとんど手がかからなかったです。
――ご主人はどんな方ですか?
母親 人づきあいは苦手なほうです。あと頑固というか、自分のやり方は決して曲げない性格です。
――何かに興味をもって、集めたりするようなところはどうでしょう?
母親 クラシック音楽ですね。主人の部屋の棚はCDでいっぱいです。聴く時間なんてないくらいだから、コレクションが趣味なのでしょう。
――父と子で遊んだり、出かけたりすることはありましたか?
母親 記憶ではないかもしれません。
――聡くんは寂しいと思っていたのかな?
母親 聡も1人が好きだったので……。でも、「よその家はいいな」と言ったのを聞いたことがあるような。小学低学年だったかもしれません。
母親の情報は示唆に富むものでした。聡くんは元来、父親に似て特定のものごとに関心を抱く特徴を有すること、そして親子の交流が乏しく、そのことに不満を抱きつつも自覚しないようにしていた可能性があること、この2点です。
ある日、聡くんに両親のことを尋ねてみると、想定外の答えが返ってきたのでした。
聡 父も母も大好きです。でも僕は親を裏切ったから、多分両親は僕を殺したいんじゃないでしょうか。
――裏切った?
聡 僕は両親を避けてきたんです。