殺人願望を持つ聡くんが語った将来の目標
この告白に、私は深い悲しみを禁じ得ませんでした。両親との関係の中に、強い防衛機制がはたらいているのが読み取れたからです。防衛機制とは、自分の本当の感情や思考を自覚すると大きな心理的苦痛に見舞われるため、無意識下に抑え込んだり(抑圧)、相手がそうなのだと捉えたり(投影)する、こころの自動装置のようなものだと考えられています。
聡くんの殺人願望は、3つの因子が整うことで作り上げられていたと理解できます。
第一 生来性の緻密なこだわり思考
第二 生育環境を通して潜伏・肥大化した攻撃性
第三 契機として、つぶれた動物の目撃、少年事件情報との接触
第三の契機としては、脳の強い興奮、それも快と結びつく偶発的な出来事によって固定化されやすい傾向があります。聡くんの表現では「ほわーとして、なんか満たされるような感じ」がそれに相当します。
ある日、聡くんは危ない事態に陥ったことを教えてくれました。夜、無性に解剖がしたくなり、台所で包丁を持ち、妹が水を飲みに来ないかと待ったのでした。
聡 あれはやばかったです。来なかったから何も起きなかったですけど。
――やばいと思ったんだね?
聡 後から考えると、していたら人生終わりじゃないですか。
――ということは、人生を終わらせたくないということかな?
聡 医学部に行って、解剖医になりたいです。こんな僕でも役に立てると思いません?
彼の「誰にも言えないこと」は、こうして将来の目標を表明することによって締めくくられたのでした。
中学生から高校生の時期は、生物学的にも心理学的にも急劇な発達を遂げる時期です。3つの因子が錯綜して絡み合い、不安定になるリスクは否応なく高まります。
そしてごく稀に、事件や自殺などの悲劇へと誘われてしまうことが起きるのです。誰にも言えない胸の内を心置きなく話せる誰かとのつながりと語らいが、この危うい段階を乗り越える際に、支えになりうるのだと信じています。
付記 本稿で取り上げる事例は、可能な限りご本人の了承を得て、かつ必要に応じて個人が特定されないよう小修正を加えて執筆するものです。