ある60歳代の男性は膵がんの一種(膵管内乳頭粘液性腫瘍)が見つかり、他院で余命3カ月と診断された。だが、上坂医師の執刀で切除することができ、これを克服。その後、腎臓、前立腺、膵臓に相次いで新たながんが見つかったが、そのたびに手術を受け、10年たった今も元気に過ごしている。現在、リトルリーグの監督として活躍中だという。
こうした例はまれだが、あきらめていたら、可能性は断たれただろう。
膵がんの手術は、むかしは命がけだった。がんに侵された門脈から大量に出血したり、術後に漏れだした膵液(強力な消化液)が内臓を溶かしたりする重大な合併症が多かったのだ。それが今は、かなり安全に手術できるようになった。
門脈を一緒に切除する膵がんの手術を、安全に施行できる技術を開発したのが名古屋セントラル病院院長の中尾昭公医師(名古屋大学名誉教授)だ。30年で700例以上の膵がん手術を手がけた。
「80年代は手術ができても平均生存期間は約10カ月でした。しかし、00年代に抗がん剤治療が進歩したこともあり、2年近くに延びています。一方、肝転移などがあり、手術できない場合は、余命3カ月でした。ところが現在では、抗がん剤のおかげで1年近く延命できる人が増えています。とはいえ、厳しい病であることは変わりありません。早く、治せる薬が開発されたらいいのですが……」
生き延びるチャンスをつかむためには、手術できる状態で見つけるしかない。中尾医師が助言する。
「実は膵がん患者は、糖尿病を発症することが多いのです。がんが大きくなると、インスリン(血糖値をコントロールするホルモン)をつくる細胞が失われていくからです。糖尿病の方は、定期的に腫瘍マーカーやCTで膵臓を調べてもらってください。糖尿病になるような生活をしていないのに急に糖尿病になった人や、膵がんを発症した家族のいる人は、特に要注意です」
■理想の治療のための5つのポイント
(1)3センチ3個以内の原発性肝がんは、手術とラジオ波どちらでもよいが、利点・欠点を理解して選択を
(2)転移性肝がんは、形が歪で焼き残すことがあるので、ラジオ波による治療は慎重に検討すべし
(3)3センチ3個を超える肝がんのラジオ波は、ガイドラインから外れていることを理解したうえで受けること
(4)胆道がんや膵がんは「手術できない」と言われても、経験豊富な専門施設なら手術できるケースがある
(5)糖尿病の人は定期的に膵臓の検査を。特に、急に糖尿病になった人は膵がんに注意