──犯罪は人から何かを奪う行為ですね。
草下 ええ。暴力はもちろん、薬物は健康を失いますし、ギャンブルで金を巻き上げて自殺に追い込むとか、結局は奪うものが大きいです。それを見ているうちに、自分は人を痛めつけるのがすごく嫌だと自覚しました。
──それで、出版の道へ?
草下 ええ。裏社会は自分には無理だと思い、地元の先輩に「物書きや出版に興味があるので、東京に行きます」と挨拶をして、出てきました。
犯罪者だけが見せる「人間本来の欲望」
──でも、草下さんは東京へ出た後も、裏社会とのつながりを完全に断ち切ろうとはしなかったんですよね。むしろ、仕事として深く関わっています。
草下 そうですね。私は、犯罪行為は好きではありませんが、犯罪をしている人は嫌いじゃないんです。
──罪を憎んで人を憎まず?
草下 犯罪行為は、取り締まる法律があるから「犯罪」とされます。そして「犯罪は悪であり、悪事をしてはいけない」という思考は、治安維持のためにも大切です。
──一般社会の多くの人は、そう考えていると思います。
草下 でも、それは表社会の道理であって、裏社会にはその常識を超えていく人たちがいます。
弱肉強食の世界で生きる彼らを見ていると、人間の本当の欲望や、動物的な生々しい姿が垣間見える瞬間があるんです。
──生存本能のような?
草下 はい。そういう姿は誰もが見せてくれるわけじゃないので。世間的には、裏社会の人間は厄介で煙たいでしょうが、私にとっては稀有な存在なんです。
「見えている社会」はわずかな上澄み
──今の社会では、“クリーンで清潔なものがよい”とされ、“汚く不潔なもの、あやしいもの、反社会的なものは排除すべき”と考える人が増えています。
そこへ、よりによってシャネルちゃんたちアウトロー女子を放つのは……『地元最高!』は、なかなか大胆な挑戦状ですね。
草下 社会には上澄みだけじゃなく、必ず澱(おり)があります。その沈殿物にこそ、さまざまな要素が入っているので、綺麗でクリーンなものだけが社会の本当の姿ではないと思います。
そもそも、今の社会は本当に「クリーンで清潔」でしょうか。私の実感としては、社会はかなり劣悪な環境になっていて、底が抜ける手前ぐらいではないかと。
──抜ける日も近いと?
草下 ええ。『地元最高!』のシュールな面白さは、現実社会にまだ平和な部分があるからこそ成立するものです。
だから、底が抜け切って現実社会がハードモードになったら、その面白さは消えてしまうかもしれない。むしろ、ほのぼの日常系マンガやアニメに、シュールさが生まれるかもしれないですね。