B医師の手紙には、後悔の念も綴られている。
《何かおかしいのではないかとずっと不安でした。本当に経過観察で良いのか、出血の可能性はないのかとも考えました。教科書を開き、感染症や肝不全などの全く的外れな可能性も考えていました。(略)自分の判断に自信がなくて、××先生にさからうのが怖くて、自分で行動できませんでした》
《たとえ上級医から経過観察の指示を受けていたとしても、おかしいと思っていたのに、あのとき目の前の自分が判断し行動すれば助かっていたかもしれないのに、何もできず、自分のせいで莉奈様を助けられなかったと思いながらずっと生きてきました。(略)恐怖に押しつぶされ、人として正常な思考ができなくなっていました》
横浜地裁は病院側の有責を前提とした和解を勧告
以後、民事裁判では、B医師、E医師による陳述書のほか、司法解剖を実施した医師を含む多数の専門医からの協力が得られ、何通もの鑑定意見書が提出されることとなった。中でもミトコンドリアDNA枯渇症候群については、国内でも第一人者とされる医師からの協力を得ることができたと言う。
「遺伝子検査などの結果や精密な分析を踏まえて「可能性は極めて低い」との鑑定意見書が作成されました。典型的な出血死の事案なのに、それをミトコンドリアDNA枯渇症候群に結び付けて責任を否定しようとする病院側の主張に憤りを感じて協力してくださったそうです」(代理人弁護士)
病院側はなおも死因がミトコンドリアDNA枯渇症候群であると主張し続けたが、2021年12月、横浜地裁は「肝生検に起因する出血死であるとの心証を固めた」として、病院側の有責を前提とした和解を勧告した。
病院側は最後まで主張を一切曲げず
「和解交渉が始まった当初は『すべて公表しないように』という条件を出されました。でも私たちは莉奈の死を無駄にしたくないという思いで裁判を始めたので、事実を隠さないといけないのなら意味がありません。公表することは譲れないと言いました。
そのあとも病院側は、診療行為を非公表にするなど様々な細かい条件を提示してきました。でも『肝生検』という言葉を出せなければ何も伝えられないので、金銭的条件については譲歩しても構わないと代理人に伝え、粘り強く交渉を進めてもらいました」(朋美さん)