最終的には、最初の記者会見でのみすべて公表し、その後は病院名、医師名、診療科名については公表しないという条件で和解が成立した。提訴時の請求額に近い和解金を勝ち取ったものの、ついに病院からの謝罪はなく、中島さん夫妻にとってはぎりぎりまで悩んだ末の結論だった。邦彰さんは記者会見で、その無念を「諦めの和解」という言葉で表現した。
「病院側は最後まで主張を一切曲げませんでしたし、これからもその姿勢が変わることはないだろうなと。色んな嘘と言い訳で自分たちには非がないと11年以上も言い続けてきたわけですし、この病院では再発防止も期待できないと思っています」(邦彰さん)
『真実を知りたい』当初からの目的は半分実現したが…
書類送検された2人の医師は、ともに2019年12月に不起訴処分となった。特に肝生検を担当したC医師については、検察審査会で不起訴不当の議決が出たにもかかわらず、2020年8月に再度の不起訴処分が下された。
「その経緯も、検察が公訴時効ギリギリになるまで何年も送検を受理しようとせず、やっと受理したかと思えば約1ヶ月で不起訴を決め、不起訴不当となってからも再びたった1ヶ月あまりで不起訴としてしまったわけですから、思うところはたくさんあります。不起訴について説明を受けたときにも、警察が丁寧に調べた資料を、検察官がきちんと読んでいないことが丸わかりでした。
でも、たくさんの協力医の先生の手助けと、当事者の医師のうち一人から謝罪があったことで、『真実を知りたい』『本当の謝罪をしてほしい』という当初からの目的を半分実現できました。ずっと膠着状態が続くんじゃないかと思った日もありましたが、その時々で自分たちにできることをやってきた結果、ようやく一歩踏み出せるところまで来たのかなと」(朋美さん)
裁判を始めた日から、中島さん夫妻の思いは一貫して変わっていない。朋美さんは今後について、「まずは莉奈の事故のことを知ってもらえるように動いていきたい」と語る。
「子を失った親としては、事故のこともその後の病院の対応もすべて悲惨な悪夢のような出来事で、詳細に思い出すのは今でも本当に辛いです。でも、医療知識のある者が、知識がない患者を煙に巻くことが許されていいはずがありません。莉奈に何が起きたのか知ってもらうことで、病院の隠蔽体質やパワハラ体質の改善につなげて、再発を防止できるような風土を作る一助としたい。それが莉奈の死を無駄にしないため、今の私たちにできることだと思っています」
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