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 実は、只見駅からだと、東京駅までは会津若松駅ではなく、小出駅を経由した方が早い。故田中角栄氏の立像がある浦佐駅で上越新幹線に乗り換えるのだ。しかし、只見駅が午前9時半の始発だと、東京駅に着くのは午後1時28分。帰りは午後1時40分発の上越新幹線に乗らなければ只見駅に帰り着かないので、東京駅での滞在時間はわずかに12分となる。ホームで飲み物を買うのが精一杯だ。

「もし、小出発の最終列車を、只見駅まで1駅運行区間を延ばしてもらえるなら、只見町から東京へのアクセスは劇的に変わります。只見駅の始発が午前5時台となり、東京駅には午前9時40分に到着することになるからです。帰りは東京駅が午後5時40分発なので、滞在時間は8時間。日帰りで十分仕事ができるようになるのです」と、只見町役場の角田さんは熱く訴える。

新潟県側から只見駅に走る(只見町、只見-大白川間)

 現在の東京出張はどうしているのか。片道2時間以上かけて東北新幹線の新白河駅(福島県西郷村)か那須塩原駅(栃木県那須塩原市)へ車で行くなどしているのが実情だ。駅へのアクセスだけでもかなりの重労働になる。

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 しかし、こうした只見町の切実な願いは、なかなか届かない。「せっかく只見線が再開したので、少しでも利用しやすいダイヤにしてもらおうと、JRに要望していますが、回答さえありません。小さな町の役場では相手にされないのです」と、角田さんは悲しげだ。只見町は人口3840人(2022年8月1日時点)と山間の小さな町である。

 そうした町だからこそ、不通区間の運行が再開された時には、新たな誘客に取り組もうと努力してきた。

只見町役場の庁舎にも運行再開を祝う横断幕が

物産販売、観光案内…取り組まれてきた数々の努力

 まず、駅前に観光案内や物産販売を行う「只見線広場」を設けた。前出の菅家さんが詰めている「只見町インフォメーションセンター」はこの中にある。

 山深い只見町の魅力は、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に登録された自然だろう。少し分け入っただけで険しい山岳地帯になり、登山の準備が必要になる。菅家さんは「雪崩で登山道が崩れていたり、沢があったりするので、ガイドと一緒に入るのが基本になっています」と話す。これだと只見線で訪れる観光客には難易度が高い。只見駅から約1.5kmの町中心部に、役場が設けた「ただみ・ブナと川のミュージアム」があり、ブナの森を再現したジオラマの見学などができるが。