「JR只見線の男」とでも言うべき人がいる。

 福島県金山町の星賢孝さん(73)。「奥会津郷土写真家」と名乗っている。

 星さんは「年間300日」も只見線を撮影しているといい、奥会津を熟知した人にしか撮れない写真の美しさが、見る者を魅了してきた。只見線が「絶景鉄道」として認識されるようになったのは、星さんがいたからだ。

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 只見線は2022年10月1日、豪雨水害で不通になっていた会津川口(金山町)-只見(福島県只見町)間の27.6kmの運行が再開された。福島県を中心とした地元自治体の財政負担があってこその再開だが、「これほど素晴らしい景観の鉄道はぜひ残すべきだ」という世論を作ったのは星さんの写真だった。それにしても、なぜ星さんは只見線の写真を撮り続けてきたのか。命がけと言ってもいいほどの使命感で撮影してきた。

大志ビューポイント(会津中川-会津川口間)=星賢孝さん撮影

きっかけは元福島県知事の逮捕だった

 星さんが撮影を始める引き金となったのは、全く関係がないように見える元福島県知事の逮捕だ。1988年~2006年に在職した佐藤栄佐久氏である。5期目の途中で辞任し、その1カ月後に収賄容疑で東京地検に逮捕された。

「福島県はこれを機に、指名競争入札から一般競争入札へと、入札方法を一気に変えました」と星さんが解説する。指名競争入札とは、一定の条件を満たして登録された業者から、入札への参加業者が指名され、この中で見積もり額の札を入れ合う方式だ。あらかじめ指名業者が分かり、業者同士も日頃から付き合いがある場合が多いので、談合の温床になっていると指摘されていた。一方、一般競争入札は、条件を満たす業者なら誰でも入札に参加できる。談合が成り立ちにくいとされ、入札改革になると信じられていた。

 しかし、地元の建設会社の役員を務めていた星さんは「大変なことになるのではないか」と危惧した。

談合が成り立ちにくい一般競争入札が招いた“矛盾”

「一般競争だと、よその大手が安い価格で落札する場合があります。大手は重機を持たず、作業員も雇用していないので、入札価格を下げられるのです。違法なのですが、下請けに丸投げするのに、20%の手数料を取るから、重機を所有して作業員も雇用している下請け業者が赤字になります。一方、地元の業者は重機を持ち、作業員は常時雇用しておかなければならないのでコストが高くなります。大手のような価格で入札する業者が出てくると、地元業者はどんどん疲弊していきました。