その結果、不良工事や安全性の問題につながっていきました。多少安くなるからといって、工事の品質は落ちる。業者の体力はなくなる。地域社会がおかしくなっていきました。
というのも、田舎の産業を支えていたのは公共工事だったからです。雇用も守ってきました。
それなのに地方の建設会社がどんどん倒産していきます。雇用が確保できなくなって、若い社員は都市部へ出て行きました。私はそうした問題意識を行政やメディアに訴えましたが、相手にされませんでした」
星さんは悔しそうに語る。
「結局、建設会社は5分の1に、雇用は10分の1に減ってしまったのです。福島県は今になって指名競争入札を復活させていますが、もう指名に入る業者がいなくなりました」
建設会社も公共工事だけをやっているわけではない。雪の降る地方で未明から除雪を行うのは建設会社だ。災害が発生すれば、経費がどれくらい出るか分からないのにとにかく現場へ駆けつけて土砂を撤去する。そうした役割を果たすためにも地域社会には建設会社が必要だったが、空白地帯が生まれていった。
「このままでは地域が滅びてしまう」。星さんは強い危機感を抱いた。
星さんには故郷を失った経験がある。
今も忘れられない58年前の記憶
1964年、土砂崩れに見舞われたのだ。
「近くにあった硫黄鉱山が原因でした。掘削をやめたあと放置され、そこに雨が溜まって土砂崩れを起こしたのです。幸い人的な被害はありませんでした。前年の春先の雪解け時、鉱山の辺りから大きな岩が落ちてきて、危険だからと10軒の集落は移転していたのです。ただ、故郷がなくなるほど寂しいものはありません。その土地で育まれてきた歴史も文化もなくなってしまう。そうしたことを身をもって経験していたので、地域を滅ぼしてはいけないと強く思いました」
では、どうするか。
既に地域社会は高齢者ばかりになっていて、新たなことが仕掛けられるとは思えなかった。「ならば、よそから人に来てもらおう。それには観光だ」と星さんは考えた。
会津には17の市町村があり、会津若松市のような広々とした盆地ばかりではない。星さんが住む金山町は、尾瀬沼に源流を持つ只見川沿いに集落が点在し、2022年9月1日時点の人口は1821人しかいない。65歳以上の高齢化率は61.9%にも及んでいて、2020年の国勢調査では過去5年間の人口減少率が14.9%と福島県内で2番目に高かった。