創意工夫で迷惑な霧を重要な観光資源へ
手作りなので、駐車場はない。トイレもない。そもそも船着場は無許可の違法構造物だった。
「昔からあった渡しなので、黙認されていたのです」と星さんは笑う。
そこで、地元の金山町役場に「霧幻峡の渡し」の事業の無償譲渡を申し出た。町は県と協力して、船着場や駐車場、トイレを整備し、運営は町の観光物産協会に任せた。今は奥会津観光の拠点と言えるほどの事業になっている。
取材に訪れた日も、観光ツアーの一群が大型バスで訪れ、「渡し」を体験した後で列車に乗り、車窓からの風景も堪能していた。参加者は「ちょうど霧が深くなった時に渡し舟に乗れたので、感動的でした」と興奮覚めやらぬ顔で話していた。
ただ、この霧も、地元にとっては迷惑な存在だった。「川霧が道路に上がって来ると、車の前がよく見えなくなって困る」と話す人もいる。それを、星さんは「幻想」という観光資源に変えたのである。
なぜ、そうした発想の転換ができたのだろう。
その秘密は星さんの日々の過ごし方にあった
「私は地元生まれの地元育ちですが、自然の中で四季に応じた遊びをしてきました。登山、山スキー、カヌー、自転車、フルマラソンまで走りました。そうした遊びをしていると、観光に来る人の目で奥会津を見ることができるようになります。日々暮らしているだけなら、苦労した思い出しかないので、楽しくいかそうとは考えられないのかもしれません。雪も台湾の人にとっては触るだけで楽しいのですが、地元にとっては毎日雪かきをしなければならない面倒な存在です。そうした目で地元を見るのではなく、外から来る人にはどうやれば喜んでもらえるのかと考えていったのです」
見方を変えることで新たな事業が行われた例もある。「景観整備」による杉の伐採だ。
撮り鉄の目線で只見線を再確認すると、植林された杉が大きくなりすぎて、景観を阻害している場所が多かった。車内でも「あっ、きれいだ」と思ってカメラを構えたら、もう車窓は杉林に変わってしまう。
現在の日本で植林した杉の価値はほぼないに等しい。このため持ち主は伐採しない。そのまま放置して、道路の見通しが悪くなるなど問題化している場所もある。雪や風で倒れれば、道路をふさぐほか、電線も切る。薄暗い林に沿ってサルやイノシシが出てくることもある。
「ならば、只見線の沿線だけでも伐ったらどうかと提案しました。建設会社にいた頃から知っていた県の土木事務所に働き掛けるなどした結果、景観整備が始まったのです」
これら様々な取り組みを行っても、「奥会津へ観光に来る人の8~9割は只見線に乗らないのではないか」と星さんは考えている。只見線を撮影に来る人は多いにも関わらず、だ。