だが、そうした地区だからこそ自然が美しく、四季は変化に富んでいた。

四季の美しさはどこにも負けない。世界中を探してもここにしかない

 冬期には3mもの雪が積もるが、春には花が咲き乱れる。夏には只見川沿いの緑がまぶしく、秋には一斉に色づいて水面を彩る。

 そうした四季の美しさはどこにも負けない。「夏には緑が濃いだけ。冬には冬枯れで寂しいだけという地区が多いのに、只見川では夏に川面から霧が立ち上がって幻想的な情景を生み出します。冬には木に雪が積って花のようになる「雪の花」が咲きます。世界中を探してもここにしかないと思いました」と力説する。

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 星さんは、そうした四季の変化を撮影して発信し、「観光客に来てもらおう」と考えたのだった。

早戸-会津水沼間=星賢孝さん撮影

 写真を趣味にしていたわけではなく、それまでは旅行で撮影する程度でしかなかった。

 勤務先の建設会社では幹部だったので、自由がきいた。仕事を少し抜け出して撮影する。その分は夜に仕事をして取り戻す。年間、ほとんどの日を撮影に充てていった。「趣味ならできません。仕事でも他のことをします。地域を残すという使命があったから続けたのです」と話す。

 そうした時に、ある発見をした。

100人が見れば100人の物語。列車の写真は人の記憶に結び付く

「只見線が写り込んでいると、風景に命が吹き込まれたような気がしました。ただの景色だと『きれいだな』で終わってしまいます。ところが、列車が入っていたら、『就職した頃に乗ったな』『恋人と別れた時には悲しかったな』などと、様々なことが思い出されます。100人が見れば、100人の物語が生まれます。列車は人の記憶に結びつき、思い入れを抱かせる乗り物なのです。バスではそうなりません」

会津柳津-郷戸間=星賢孝さん撮影

 これに気づいてからは、必ず只見線を入れて撮影するようになった。絶景だけども、絶景だけではない。なぜか様々な感情や思い出が呼び起こされる。これが星さんの写真の持ち味になっていった。

 だが、只見線は2011年7月の豪雨水害で被災した。会津川口-只見間では橋梁が落ちるなどして不通になり、JR東日本はバス転換を提示した。星さんは「バスではダメだ」と強く思った。なかなか理解されなかった。

「JR東日本は、『停留所が増やせるし、バスにした方が利便性が高い』と主張しました。住民も『バスでいい』と考えました。日頃は鉄道など使わないから、どうでもよかったのです。