名物は「イノシシ肉」だけではなく……
そして、最後にいただいたのが、具材がたっぷり乗った「特製うどん(850円)」だ。ジビエ料理を出すレストランでうどんが提供されたことに驚いたが、なんと、陽氣な狩人は大手飲食店情報サイトで島根県ナンバーワンのうどん店に選ばれるほどの有名店なのだという。
器に顔を寄せると、湯気から出汁の香りが匂い立つ。透き通るほど白い、ウェーブのかかった平薄麺は独特のコシが残っていて、ほのかに小麦の風味が感じられ、なんとも美味い。
実は大将は、9年前まで市の中心部で飲食店を構えていたのだという。うどんを打ち始めてからのキャリアはなんと40年以上。どうりで一つひとつの料理の完成度が高いわけだ。島根県ナンバーワンのうどん店に選ばれることにも思わず納得する。
銃一本を携えて相棒の犬と行う“狩り”
ところで、一般的にイメージされる“猟師”の姿に比べると、いくらか痩躯な今田さんは巨大なイノシシをどのように捕獲しているのだろうか。
「私の猟は犬を使う猟だから、犬猟。いまは甲斐犬と甲斐犬の雑種を4匹飼っとって、犬と一緒に山の中に入っていくんよ。そしたら犬がイノシシを探してくれる。『ワンワン』って吠えたら、私がそこに行って、鉄砲でドンと撃つ。
名犬がおれば大体の場合、確実にイノシシを仕留められる。でも、もう歳も歳だからあんまり多くのイノシシを獲るのは難しい。単独猟だから。犬4匹と私が一緒に山に入って、こんな大きなイノシシを山から引きずり出すのは大変だからね」(同前)
御年71歳とは思えないほど元気ハツラツとした今田さんとはいえ、自分よりも重い巨大なイノシシを持ち運ぶのは、たしかに身体に堪えるだろう。それでも、身体的な負担が少ない罠猟ではなく、犬猟を続けているのには理由がある。
「まず一つは、山に入って、犬が喜んでくれるのが嬉しいという気持ちだね。
あと、ストレスがかかって胆嚢が大きくなっとるようなイノシシは、肉にもストレスがかかっとって、味が落ちるんよ。一番美味しいイノシシは、やっぱり猟銃一発で仕留めたやつ。イノシシがストレスを感じることなく逝ってるからね。
檻に入れられたり、罠にかかった状態のままで、2日も3日も放置されてしまうと、そりゃあストレスを感じてしまうよ。胆嚢の大きさも、罠で放置される時間の長いイノシシと、猟銃で仕留めたイノシシとでは全然違うんだから」(同前)