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山の中で危険な目にあったことはないんですか?

 人里に被害をもたらすイノシシを狩り、その肉を無駄なく美味しくいただく。自然と調和した暮らしを送る今田さんだが、こだわりのあまり、危険な目にあうことはないのだろうか。

 例えば、イノシシにストレスを与えないためと語った犬猟は、山にいる時間が長いぶん、罠猟よりも野生動物から襲われる危険性は高いと思われる。

「銃を使わない猟法だと、捕らえたイノシシを最後に刺したり殴ったりして殺さんといけん。そのときに怪我をする人が多いんよ。瀕死だとしてもイノシシが生きとったら、噛みついてきたり、引っ掻いてきたり、反撃してくるけえね。かえって銃を使った方が安全っていうわけじゃね」(同前)

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山中に設置された箱罠。捕獲率が高く、初心者も比較的扱いやすいという利点がある

 猟の危険性について何も知らない私たちに対して、懇切丁寧に実情を説明してくれる。とはいえ、猟の最中にはイノシシ以外の危険な動物に遭遇してしまうこともあるだろう。例えば、取材の数日前にも、お店の裏の民家にクマが出没し、住民の方が怪我を負うという事故があった。

 今田さんは、猟をするうえでクマとの存在を感じることなんてしょっちゅうだと豪快に笑う。

「木々の向こうから、こちらを見ているような気配があっても、まったく怖くない。クマって小心者だから。みんな『怖い怖い』って恐れるから、クマも調子に乗るんだって。棒持って追っかけてみんさい。クマも『人間って怖い』と思うはずよ。人間側が怖がってばかりだから、向こうも勝ったと思うとるんじゃないかね。

かつて地域の方が獲ったクマを譲ってもらったのだとか

 それでも、人間が生物の頂点だとはまったく思っとらんよ。こんなに環境を破壊しとるんだから。

 山の木を切って、次に何を植えるかいうたら、成長の早いスギやらヒノキやらばっかり。要するに、イノシシとかクマとかのエサが山からどんどん減っていくわけよ。それで、どんどんイノシシ、クマが人里に降りてくる。それで“有害”っていわれても、イノシシからしたら、ただ生きてるだけじゃない。人間が木を切るから、里に下りなきゃ生きていけんくなっとるんだから。

 自然災害もそう。広葉樹と違ってスギ、ヒノキみたいな針葉樹は“ひげ根”だから土に深く根を張れんわけよ。だから土砂崩れがたくさん起こる。それで、土砂崩れが起こったらその箇所をコンクリートで固めるでしょ。コンクリートで固めたら水が濾過されないまま川へと流れ込んでしもうて、その水が海へと流れていって海洋汚染になる……。すべてのことが繋がっとるんだよね。それでも環境を破壊し続けとるんよね」(同前)

美味しいご飯だけが名物なのではなく……

 お店を訪れたお客さんとは一緒にご飯を食べながら、このように、経験に基づいたさまざまな話をする。そうした体験を含めてお店のファンになってくれる常連客が多いのだとか。

 コロナ禍の際に出前を始めようかとお客さんに相談したところ、「違うのよ大将、私はここに来て食べたいの。美味しいご飯が食べたいだけじゃあないの」と猛反対を受けたというエピソードも聞かれた。まさしく、大将との交流を楽しみにしている人が多い証拠だ。

「ここに来るまでの道のりも自然を感じられるじゃん。それで、お店まで来てもらって、一緒にお話ししながら、美味しい料理を食べる。これがね。これがいいんだよ。」

見送りの言葉が書かれた看板

 今田さんは嬉しそうな笑顔で私達に伝えてくれた。

取材協力=田舎カフェ&キッチン 陽氣な狩人
写真=山元茂樹/文藝春秋

INFORMATION

田舎カフェ&キッチン 陽氣な狩人
住所 〒697-1203  島根県浜田市弥栄町高内イ333-1
電話 0855-48-5408/090-1017-7807
営業時間 11:00~15:00
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