他に現場にいた知人数人に尋ねても総じて点数が辛かったのだが、チェンに感想を聞いてみると、
「今日の、集会に出て、自由と民主のために戦おうという気持ちが、わきあがりました」
そうなのか。やがて、前日のキャンドル集会で知り合ったという彼の友達らと合流し、場所を変えて事情を聞いた。関西でトップクラスの国公立大の大学院生が2人混じっている。彼らと1時間ほど話していると午後7時前になったので、今日の取材はここで打ち切ることにした。
散会の直前、チェンがいきなり真剣な表情で私に近づいてきた。そして小声で「僕が活動に参加する理由、本当はもうひとつある」と囁く。「午前中は言えなかったけど、大事な理由だから、教えます」という。
「僕、ゲイです」
「共産主義国家はゲイを弾圧する。これも戦う理由のひとつ」
「金融寡頭いらない」「家父長制いらない」?
在日中国人留学生たちの白紙運動は、11月27日の勃発からわずか1週間ほどで、イデオロギーや活動方針の面でふたつの傾向を示しつつある。
ひとつは「敵の敵は味方」という理屈なのか、反中右派の(すくなくともそうしたルーツや支持者を持つ)日本人政治活動家との接触に抵抗感を持たない立場だ。もっとも、日本で中国を批判する外国人が、やがて日本人の反知性的な政治運動や保守言論ビジネスに飲み込まれる現象は毎度おなじみの話であり、残念ではあっても驚きはない。
だが、いっぽうで興味深いのが、バリバリのリベラルの立場から中国共産党を批判する留学生も、それなりに多く存在していることだ。
たとえば、大阪で知り合ったチェンの友人の大学院生・リー(仮名)が配っていたビラは、LGBTQを象徴するレインボーカラーがあしらわれていたり、「金融寡頭いらない」「家父長制いらない」など、かなり攻めた文言がおどっていたりした。
後日に調べたところ、どうやらビラ自体は東大や早稲田あたりの留学生グループが制作したようだ。だが、それを配るリー自身も、非常に流暢な日本語で、私の取材にこんなことを話し続けた。
「習近平の独裁体制のもとでは、女性、LGBTQ、障害者、そして少数民族といった社会的弱者が特にひどい抑圧を受けています。なかでもウイグル人が受けている圧迫はひどいものであり、救わなくてはなりません。また、僕はフェミニズムについてはまだ学ばなくてはいけませんが、国家は大きな父権であり、闘争の対象として定義されるはずで──」