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優秀な学生の理想主義

 白紙運動が始まって以来、私が家庭の事情や本人の生い立ちまで話を聞けた中国人留学生は10人程度である。彼らの大部分の実家は共産党系ではないが、実はチェンのような「反革命」系の家も少ない。つまり、多数は政治色が薄い家庭で育っている。

 いっぽう、両親の職業を尋ねると大学教授・医師・弁護士・社長……と「いいとこの子」ばかりであり、意地悪に言えば現代中国社会の既得権益層の子弟たちだ。日本における所属先も、1人だけ専門学校生がいたほかは、基本的に最上位クラスの大学の学部生か大学院生ばかりだった。

12月2日、池袋でおこなわれた集会の参加者。運動シンパのSNSグループでは、活動がないときは「日本は好きだけれど日本企業は(非効率的だから)ごめんだ」「外資の日本支社に就職しよう」「日本で弁護士資格を取りたい」といった話題も見られた。©Soichiro Koriyama

 本人の思想遍歴を聞くと、ほぼ全員が10代後半までに共産党体制に違和感を持っていた。中国の若者としては、せいぜい全体の数%の「変わり者」である。もっとも、習政権下で強化された愛国主義教育にあらがって体制に疑問を持つような人は、読書量が多く批判的思考の習慣を持つ人が多いので、必然的に上位校の学生ほどその割合は高くなる。

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 これは日本国内の留学生の傾向だが、周囲の話を総合する限り、中国国内の運動の「上澄み」についても同様である。もっとも中国国内の場合は、頭でっかちな理想主義を抱く「ガチ勢」の学生と、ゼロコロナ政策にうんざりしていた一般層の人たちが同調したことで、あれだけ大きな騒ぎに発展した。

地下鉄を出るチェン。この直後に軽トラに轢かれかけたが、彼も「ガチ勢」の学生だ。©Soichiro Koriyama

 いっぽう、日本を含めた海外の場合、中国人の数が限られているので、運動のフォロワーになる一般層は多くない。ゆえに必然的に「ガチ勢」だけが目立つ。

 事実、留学生たちに参加理由を尋ねると、「友人がゼロコロナ政策で失業した」といった身近な怒りもゼロではないものの、中国をはじめとする世界各国(ウクライナ、イランなど)の反独裁・民主化問題やフェミニズム、マイノリティへの配慮といった、やたら大きな話のほうを熱く語りがちである。

胡錦濤時代を知らない子供たち

 今回の白紙運動は「天安門事件以来」と報じられることが多いが、実は中国において、大衆運動自体はそこまで珍しいものではない。かつて胡錦濤時代まで(~2013年)、生活上の問題や現場の官僚への不満などを理由に群衆が騒動を起こす事態(群体性事件)は、年間10万件くらい起きていたのだ。

 もっとも、事態が多発していたがゆえに、当時は抗議側も当局側も話の落とし所を理解していた。抗議側は党体制を否定するほど過激なことは言わず、当局側も庶民の生活上の要求についてはそれなりに解決を図ってあげるという、官民双方の阿吽の呼吸も存在した。しかし、習近平体制下の締め付けによって群体性事件が社会からほとんど消え、いまや10年が経った。