1964年(84分)/ディメンション/4180円(税込)

 本連載ではお馴染み、珍しい旧作映画を掘り起こしてDVD化するレーベル「DIG」は現在、日活のレア作品を断続的に出している。

 そうした中、また気になる一本が新たに発売された。それが、今回取り上げる『人間に賭けるな』だ。

 正直な話、今回の発売まで知らなかった作品だ。が、さまざまに惹かれる要素があったことも確かだ。まず、そのミステリアスなタイトル。ここまで主張を言い切るタイトルは珍しい。そして作品の題材が競輪というのにも惹かれた。日活で競輪が題材、しかもヒロイン役に渡辺美佐子といえば、本連載の初期に取り上げた傑作『競輪上人行状記』もあり、これも期待できそうに思えたからだ。

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 そして何より、DVDパッケージの宣伝コピーが良い。「このソフト化そのものが“賭け”ともいえるギャンブル映画の大穴!」

 半ばヤケクソ気味にもとれる、思い切ったコピーを目にして、本編を観る前から「よし、その“賭け”に乗って、ここで取り上げよう」という気になったのである。

 ありがたいことに、これが見事な掘り出しモノだった。

 サラリーマンの坂崎(藤村有弘)は、子どもの養育費や集金した会社の金を全額、競輪に注ぎ込んでスッてしまう。なんとかして金を取り返したい坂崎は、帰りに出会った謎の女性・妙子(渡辺)に「明日は飯田栄治に賭けなさい」と促される。言われるまま賭けたところ、大当たり。危機は乗り切ったが、それは真の地獄の入口でしかなかった。

 競輪にハマり込んだ人間の業が、とことんまで突き詰められた作品だ。「何かに賭けようとしない人間には(酒を)飲ませたくない」と堂々と言い張る坂崎。恋人から競輪走者をやめるよう諭されるも、そこから抜け切れない栄治(川地民夫)。そんな栄治に入れ込んで、身を滅ぼす危険性をはらみながらも栄治に賭け続ける妙子。

 欲に憑かれた人間たちが薄汚れた競輪場を舞台に、むせ返るばかりの濃厚なドラマを展開する。むき出しになった欲望がぶつかり合う物語は、破滅へ一直線に向かっていく。

 前田満州夫監督も鮮烈だ。淡々と突き放すような冷たいタッチで彼らの生態を追うことで、その業をより根深いものとして浮き彫りにしていた。

 何より、破滅的な生き方から抜け出せない妙子を演じる渡辺が凄い。特に終盤、ボロボロに崩れ、その心の穴を埋めるかのように坂崎との情事にふける様は、もはや狂気。恐怖すら感じる情念を放つ。

 それなりの本数の旧作邦画を観てきたつもりでいたが、これだけの作品を知らないでいたとは。恥じ入る次第だ。