また、「ご進講」も「オンライン行幸啓」も取材方法に問題がある。宮内庁が公表した情報であったり、代表記者しか取材していなかったりするため、各メディアが一律の報道を展開している。記者は、直接の行幸啓の時に行っていたような方法で、天皇・皇后と人々がその場でどのような会話をしていたのかを取材することができない。また、天皇・皇后と会話をした人々へ後追いで独自に取材することもなされない。それゆえ、「オンライン行幸啓」の報道はどこへ行ってもどの社も同じような形になっている。これでは当初はものめずらしくて注目されたものの、次第に人々から飽きられてしまう。
しかも、こうした「ご進講」や「オンライン行幸啓」の様子が宮内庁のホームページに掲載されるのはしばらく経ってからで、情報がスピード感を持って流れていく現代社会に適合していない。
イギリス王室の積極的なSNS戦略
こうした問題を宮内庁も認識してか、2023年度予算で広報体制の整備のための人員増員を要求していることを公表した。小室眞子さん結婚の過熱報道も要因の一つだろう。また、イギリス王室が積極的なSNS戦略を採って、人々の支持を得たことも背景にはあると思われる。
とはいえ、まだまだ課題も多い。どういった情報をどう伝えるのか。週刊誌報道などに対する反論のみを流していては、「国民統合の象徴」である天皇の立場とは異なるものと思われる。また、もちろん様々な公務については知らせつつも、形式的な情報ばかり流していては、やはり次第に飽きられてしまう可能性はある。
2014年、当時の天皇と皇后の写真をツイートした女子高生が不謹慎と批判を浴びたことがあった。皇太子時代の天皇が外国訪問中に市民とのセルフィーに応じたこともある。もし宮内庁がSNSを展開するならば、こうしたツイートも積極的にリツイートし、親しみを持てる皇室のアピールを考える必要があるのではないか。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。