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 私は刀を見てお金を盗むために脅していると思い、恐ろしくなって耳を閉じたり開けたりしていたので、男の言ったことはよく分からない。「お金はいまここにはない」という父の声が聞こえた。男と父は茶の間に行ったようだ。「金庫のお金なんか出せない」という父の声がする。〉

 緊迫した様子がうかがえる。三女は父母と男のやりとりを聞いている。

 金庫の鍵と中の鍵の2つがなければ開かない

 金庫は打ち破るわけにはいかないか

 1人では1時間や2時間ぐらいかかっても開かない

 騒いだら駄目だから縛る

 いや、縛らんでもいいでしょう

 この人の気の済むようにしたらいいでしょう……

 こっちの手が後ろに回らなくて痛い

〈母が縛られているのだなと思った。〉

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 ちょっと小便に行ってきたいが

 いや、駄目だ

 困ったなあ

 そこの火鉢にでもしたら……

〈ぴょんぴょんとはねて行く音がしたので、父は足を縛られているのだと思った。〉

 騒がれたら困るから、この注射をする。この薬は3時間ぐらいしたら覚めるから

 そんなものを打っても大丈夫か

 なんでもない

 病気をしているんだが、注射してもいいのか

男 大丈夫だ

「恐ろしい。どうする?」「父さんがああしているんだから黙っていよう」

〈母に注射を打ったらしい。間もなくうなり声がしたが、眠ったのか、声はすぐ聞こえなくなった。〉

 その後、どんな話になったのか、はっきり聞き取れなかったという三女。読んでいると、何か不思議な印象を受ける。単純な強盗事件ではないような……。やりとりはさらに続く。

父 金庫の鍵は堀川という代理が持っているので、そこへ行かねばならない。行きましょう

 いや、そんなことをしたら騒がれる。そんなこと、事実問題として不可能だ

 裏から行けば大丈夫だ

 堀川の家族は何人いるか

父 子ども3人で小さい子ばかりだ。騒がせないようにする

〈2人は廊下に出て私たちが寝ている部屋をのぞいた。〉

 よく寝ている

 この子たちは眠ったら朝まで起きないんだ