文春オンライン

“筋肉をつくるには「肉」が必要”が常識…それでもプロアスリートが“ヴィーガン”という生き方を選んだ納得の理由

『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』より #1

2023/01/11
note

 プラントベースに切り替える以前はどんな食生活で、なぜヴィーガンになったのだろうか。

「昔は焼肉、とんこつラーメン、生クリームが好物でした。プラントベース食に切り替えたのは14年春。アメリカに住んでいた時に、チームメートだったソーニャ・ルーニー選手から勧められたことがきっかけでした。ソーニャはプラントベースに移行した結果、成績と体調が劇的に向上し、世界チャンピオンになったほどの選手。ソーニャと僕はチームの中でも特にジャンクフード好きだったので、『ソーニャが変われたのなら、自分もできるかも』と決心しました」

 プラントベースの食事は、マクロビオティックのインストラクターの資格を持つ清子さんが作った。清子さんは涼やかで優しげな笑顔が素敵な女性だ。

ADVERTISEMENT

「植物性でも満足する料理を作ろうと、豆、野菜、大豆ミートで作るギョーザ、雑穀のハンバーグなどいろいろ工夫してみました。通常のレシピの肉を植物性食材に代えてみたり。米国人チームメートも野菜類をグリルで焼いて、シンプルでおいしい料理を作ってくれました」

体のむくみ解消、花粉症は改善、初優勝も

 プラントベースにして3カ月後、池田選手の体調は目に見えて変わり始めた。体のむくみは解消され、花粉症やぜんそくの症状がなくなった。同年7月にはこれまで一度も勝てなかった米国の100マイル(約160キロ)レースで初優勝も手にした。

 動物性食材を食べていたときと比べて体重は平均約3キロ、体脂肪率は約2%落ちたが、ハードなトレーニングの後でも疲れが残らなくなり、優勝回数も増えた。

「特にうれしかったのは、ぜんそくの症状が出なくなったこと。30代後半に発症し、練習やレース中に発作を抑える吸入薬が欠かせず、不調を抱えながらの競技生活で悩みは尽きなかった。ぜんそくが治まり、医師からも『気管支の炎症が見られなくなったから、薬をやめても大丈夫』と言われ、今は何の不安もなく生活できています」

 ぜんそくが治まったとは。肉を断つとそんな効果があるのだろうか。私自身も気管支ぜんそくで悩まされているだけに驚いた。

 清子さんからも変化が見えたという。

「夫は、練習やレース翌日の筋肉疲労がかなり減りました。以前は海外のレースを終えて帰国中によく風邪を引いていたのですが、それもほとんどなくなった。動物性食材による炎症が原因で体調不良が続いていたけれど、プラントベースで炎症が和らぎ、老廃物を排出することで改善されたのではないかと思っています」