動物保護の観点や環境意識への高まりをはじめとした背景から、近年「ヴィーガン(動物性食品を口にしない)」という生き方が注目され、なかには健康のために菜食を実践する人も少なくない。
肉を一切口にしない生活は健康にどのような影響が現れるのだろうか。ヴィーガンのなかには、菜食によって、以前よりも健康的な生活を手に入れることができるようになったと語る人もいるが……。
ここでは、時事通信編集委員の森映子氏の著書『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』(角川新書)の一部を抜粋。ヴィーガン食と健康、病気との関係に詳しい津金昌一郎氏の見解を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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ヴィーガンは本当に「健康によい」食生活なのか
私はこれまで出会ったヴィーガンの人たちから、「健康に良い」「体調が良くなった」などの感想をたびたび聞いた。確かに脂肪を取り過ぎている日本人の割合は増えており、肉やバターなどの動物性脂肪、パーム油などに多く含まれる飽和脂肪酸(血液中に悪玉コレステロールを滞らせ動脈硬化の原因になる)の過剰摂取は、肥満や心筋梗塞など循環器疾患のリスクを増大させると厚生労働省なども注意を促している。
ただし、国が推奨しているのは、塩分は控えめにして動物・植物・魚由来の脂肪を「バランス良く取ること」だ。ヴィーガンたちのように動物性食材を完全に抜いて十分に栄養が取れるのだろうか、体力が落ちたり病気にならないのだろうか――。
こうした問いを抱き私は取材を始めた。
ヴィーガン食と健康、病気との関係で詳しい研究者を取材先で薦めてもらい、津金昌一郎さんに話を聞くことにした。
津金さんは国立健康・栄養研究所長で、1955年生まれ。慶応義塾大医学部卒。医学博士で、国立がん研究センターの社会と健康研究センター長などを経て、2020年に国立健康・栄養研究所長に就任した。肉食とがんの関係などについても詳しく、ヴィーガンと病気についても最適の研究者だと思った。
21年12月、同研究所に伺った。私が「文系なもので……」と言うと、津金さんは用意していた資料やパワーポイントを示しながら丁寧に説明してくださった。