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――お話を聞いていると、欧米人こそが食習慣をドラスチックに変える必要性があるように思えます。

「世界中の人が日本的な食生活になれば、かなり環境負荷は低くなります。日本食はすばらしい。欠点は塩分。油をあまり使わない代わり、しょうゆ、みそなどで味を付けているから塩分が高くなる。WHOは、1日当たりの塩分を5グラム未満にしなさいと提言している。塩分が少ない和食がベストですが、5グラム未満にすると病院食みたいな薄味になってしまう。塩分控えめな調味料を使うなどの工夫が必要かもしれない」

日本人の8割は肉の食べ過ぎを心配する必要はない

――肉の量はどれくらいがお薦めですか。

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「僕が主任研究者を務めているコホート研究で、飽和脂肪酸の摂取量と循環器疾患との関連を調べたところ、心筋梗塞のリスクを上げずに、脳卒中のリスクを下げる飽和脂肪酸の摂取量としては、1日20グラム程度でした。これは、コップ1杯の牛乳と、2日に1回150グラム程度の赤肉を取るぐらいの量で、これだと大腸がんのリスクも上げないと思われるので、日本人にはお薦めです。

 加工肉であれば、目玉焼きに付ける薄いハム2枚ぐらいをできたら2日に1回。ソーセージも食べる人なら、ハムは週に1回程度にしておくとか。加工肉が嫌いであれば、無理して食べないほうがいいでしょう」

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 厚生労働省が提唱する指標「健康日本21」は、1日当たりの野菜の目標値を350グラム以上(栄養素の量)としている。

「野菜と果物は毎日合わせて400グラム程度が一番効果があり、日本人の野菜摂取は平均約380グラムで、60歳以上は平均400グラムを取っています。しかし、20~40代の野菜摂取は300グラム程度にとどまる一方、肉が多く魚介類、豆類の倍以上を食べています」

――プラネタリーヘルスダイエットに対し、肉の摂取量が少な過ぎるとの異論が噴出していると聞きましたが、どういうことでしょうか。

「それは当然、食肉業界が猛反発するでしょう。ベジタリアンを研究しているオックスフォードの学者たちと一緒に食事とがんとの関係について論文を書いたとき、肉の記述に関していろいろな攻撃があったと聞きました。自分たちの産業を守るために反発される。たばこ業界も『たばこは健康に悪い』と言われると、反発しますから。

 日本人のうち、肉を食べ過ぎている2割程度の人は抑制するべきですが、それ以外の8割の人はそんなに心配しなくていい。ベジタリアン、ヴィーガンは欧米人にとって、相対的にヘルシーなイメージはあります。ですが、絶対的に健康な食生活とは言えません」 

 津金所長の取材を通して、大腸がんリスクに関しては、欧米人並みに肉を食べている人が気を付ければよく、むしろ野菜だけの食事では脳卒中のリスクを高めることが分かった。ヴィーガンの足の骨折リスクが肉食の2倍という研究結果については、正直怖いなとも感じた。特に妊婦や成長期にある子ども、フレイルになる可能性がある65歳以上の人には、むしろヴィーガンはリスクが高いことも知った。