筋肉を付けるためにタンパク質を意識的に摂取する。減量のためにカロリーを制限する。美容のために多様なビタミンをサプリメントで取り入れる……。普段の生活において、栄養を意識することは少なくない。

 なかでも、アスリートと呼ばれる人々は、身体が資本であるぶん、いつ、なにを、どのように食べたら良いのか、徹底的な栄養管理が必要不可欠だ。そんななか、近年はこれまでの「常識」を覆すヴィーガンのアスリートが国内外で登場している。

 彼らはなぜ、従来の食事習慣を一変させたのか。ここでは、環境問題、ジェンダー、ペットや産業動物の実態に詳しい森映子氏の著書『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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チームメートに誘われて―ヴィーガンアスリートの池田祐樹選手

「筋肉を作るためには肉を食べないと」というのが、これまでの主流の考え方だった。だが今そんな「常識」を覆すヴィーガンのアスリートが国内外で登場している。長距離・耐久レースの第一人者であるプロのマウンテンバイク(MTB)ライダー、池田さんはその1人だ。

 池田さんは、米プロバスケットボール協会(NBA)を目指してコロラド州の大学に留学中にマウンテンバイクを体験。その魅力にはまり、2009年にMTBライダーに転向した。米トピーク・エルゴン・レーシングチームに加入してプロ活動を始め、11~17年の7年間連続でMTBマラソン世界選手権日本代表として参加した経歴を持つ。

 池田さんのことは、先に紹介した工藤柊さんが運営するブイクックのサイトのインタビュー記事で知った。池田さんが、プラントベースにしてから体調が良くなり成績が上がったことなどを語っていて、「こんな人がいるんだ!」と驚き、一方でアスリートとして体力などに影響はないのだろうかと疑問もわき、ぜひ話を聞きたいと思った。

 21年7月、池田さんご夫妻が住む東京都青梅(おうめ)市のご自宅を訪問した。

撮影=大脇幸一郎

 妻の清子(さやこ)さんは池田さんと同い年で「プラントベース・アスリートフード研究家」だ。自転車などが置いてあるトレーニング場の1階スペースで話を伺った。

 体脂肪が6~8%という池田さんの腕と足は筋肉が適度に付き、ウエストはキュッと細く、お尻は小さい。鍛え抜かれた逆三角形の体だ。

「思わず見入ってしまうほど引き締まってますね」

 池田さんはにやりと微笑んで答えた。

「この体は全部プラントベースでできてますから。植物性食材に切り替えてからレースの成績が伸びた上、体調も改善し、持病が治まりました」