一般的には「肉や魚はタンパク質が多く体をつくるもとになる。牛乳は骨や歯をつくる」と言われているが、それについてはどう考えているのだろう。
(清子さん)「幼い頃から数年前まで、『健康になるには、肉と牛乳を取らないといけない』と教えられ、疑問を持たずに生きてきました。でも今は、植物性食材についての正しい知識、食料危機と畜産業、大規模漁業との関係性を伝えるドキュメンタリー映像も手軽に見ることができます。つらくなるから現実を知りたくない、という人もいるけれど、真実は少しずつ明らかになりつつあると思います」
ただし、完璧に菜食であるべきとは思っていない。清子さんは言う。
「完璧を目指すとストレスを感じることも。自分がどういう方向に向かっていきたいのか、目標を見失わずに継続することが大事なのかなと思います」
拡大するヴィーガンアスリート
ヴィーガンのアスリートは少しずつ増えている。インスタグラムには、プラントベースの食事を実践するアスリートが集うアカウント「ベジンジャーズ」が開設され、池田選手ら10競技以上の選手が日々の練習風景や食事、思いなどを発信している。
その中には、東京五輪女子ホッケー日本代表の永井葉月選手、東京五輪女子テニス代表の日比野菜緒選手、18年と19年の全日本選手権で優勝したフィギュアスケート(アイスダンス)の小松原美里選手、16年リオデジャネイロ・パラリンピック水泳代表の一ノ瀬メイさんらもいる。
そんなアスリートの状況を池田さんはどう見ているのか。
「仲間ができて本当にうれしい。ヴィーガンのアスリートとして強くなり、地球にも優しく、経済(畜産)動物を減らすことができる、いいことずくめですね。広い視野で生きることができるようになったと実感しています」
爽やかな笑顔の池田夫妻に見送られて帰宅した後、私は池田さんが見たという動画配信サービス・ネットフリックスのドキュメンタリー「ゲームチェンジャー スポーツ栄養学の真実」(18年公開)を鑑賞した。
食生活を動物性から植物性に替えたトップアスリートたちの体験が描かれ、話題を呼んだ作品だ。ロンドン五輪の自転車競技の銀メダリスト、アメリカのドッチィ・バウシュ、アメリカのウエイトリフティング新記録保持者のケンドリック・ファリスらが植物性中心の食事の効果を語り、栄養学の研究者がその効果を分析。筋骨隆々のヴィーガンアスリートがもりもりプラントベースの食事を食べて強くなり、ステーキを何枚も食べているアスリートに勝つ試合の様子は目を見張るものがあった。