競技をやめてもプラントベースで
池田さんは非常に勉強熱心でもある。栄養と環境との関係を学ぼうと、18年には米コーネル大学の「プラントベース栄養学」のオンライン講義(6週間)を履修。このコースは生活習慣病と食の関係を考察したベストセラー『チャイナ・スタディー』(グスコー出版)の著者、コリン・キャンベル教授の研究成果に基づいている。
「食物の栄養成分を勉強するだけではなく、生産方法を知り、それが地球環境にどう影響しているのかを学ぶ包括的な内容でした。僕はかつて乳製品や肉類が大好きだったけれど、工場畜産などの状況を知り、今までの食生活を省みました」
池田さんはさらに続けた。
「今、スーパーマーケットにごまんと商品が並ぶ中、どれだけの人が本当に健康にいい物を選んでいるのでしょうか。アスリートも『あのサプリがいい』などいろんな情報に左右されています。僕はレースに勝つと『ヴィーガンなのにすごい』と驚かれますが、負けると『やっぱり肉を食べてないから弱いんだ』と言われることもあり、世間の評価は怖い。そんな日々の中で、自分の価値観をしっかり持っていれば、ぶれないでいることができます」
私は運動音痴でスポーツの取材もしたことはないが、一般的にアスリートは自分の食事の栄養やカロリーをきちんと管理していると思う。池田さんは栄養管理にとどまらず生産の方法や地球環境まで考える知的な人である。世間一般のヴィーガンに対する価値観にも左右されることなく、自分を信じて己の道を突き進んでいる。
さらに驚いたことに、妻の清子さんも、夫をより深くアスリートの視点で食事面からサポートするために14年ごろからランニングを始めた。アスリートに必要なものを体感しながら考えられるようになったという。
清子さんが言う。
「先日骨密度を計ったら、同世代の123%、20歳と比べても119%という数値が出たのです。これは私の密かな自慢。プラントベースにしてから、以前よりさらに野菜、海藻、ごまなどを食べるようになりましたから」
確かにSNSで見る清子さんのランニング姿は適度に締まり、美しかった。