ポピュラーミュージックの世界では、同じ歌詞を歌っても、歌い手によってその意味がより強調されたり、場合によってはまったく違った意味を持ってしまうことがある。「世界に一つだけの花」は、槇原敬之が歌ってもそれなりにヒットしたはずだが、時代を代表する曲にまでなったのは、やはりSMAPが歌ったからこそだろう。まず何より、SMAPのメンバーがそれぞれの個性を生かして花を開かせ、そのことが人々に周知されていた。それゆえ歌は説得力を増した。
大ヒットとなった要因が、メンバーのなかでも草彅主演のドラマの主題歌に使われたという点も見逃せない。ほかのメンバーが個人でも活躍の場が与えられていくなかで、草彅の存在はいまひとつ目立たず、ブレイクまで比較的時間がかかった。しかし、やがて彼も俳優の仕事などで持ち味を引き出され、注目されるようになる。そんな草彅の経歴と「世界に一つだけの花」の歌詞は見事に重なり合う。ちなみにシングルカットに際し、アルバムバージョンでは木村が歌っていた大サビが草彅の担当に変更されている。
国民的アイドルが「オンリーワン」を説くのは矛盾なのか
もちろん、芸能界でNo.1となったSMAPがこの曲を歌うのは矛盾ではないかという指摘も当然ながら出た。メンバーもそんなことは重々承知であった。木村拓哉はシングルリリース時、《これオレらが歌うって、歌い逃げかも。オンリーワンとか言っちゃえるの、オレらだからこそ…って感じするじゃん(笑)。もちろん、この曲に共感して自分の中で受け止めて歌う人がいれば、それもその人だからこその歌になる。それがオンリーワンってことだよね》と話していた(『ザテレビジョン』2003年3月14日号)。
木村はまた、CDの売上枚数もテレビの視聴率も、自分にとってはひとつの情報であって、それら順位の裏にある、曲を聴いたり番組を見たりしてくれる人の気持ちをちゃんと感じたいと、別のインタビューで語っている。
さらに彼は、インタビュアーの「CD不況のなかでこの曲にはぜひ大ヒットしてほしいと音楽業界全体も願っている」との言葉に返す形で、《その音楽業界って、業界がついてしまうと、すべて何かマネジメントの世界になってしまうように思えて…。(中略)僕の勝手なエゴかもしれないけど、金のことだけを考えたくねえなって。バケツの中にいても、自分はちゃんと胸を張ってないとダメだし、銭勘定をしてものづくりを絶対したくないというのは、すごくありますね》と述べた(『日経エンタテインメント!』2003年4月号)。