2003年12月31日、NHKの紅白歌合戦で男性アイドルグループ・SMAPが大トリを務めた。会場となったNHKホールでは、司会の男性アナウンサーが「今年の歌い納めはSMAP『世界に一つだけの花』」と告げると、ステージに5人のメンバーが登場し、まず木村拓哉が「みなさん。目を閉じて2003年を思い出してください」と切り出す。

 続けて中居正広が「今年、世界中で、たくさんの尊い命が失われました」と語り、稲垣吾郎が「また、目を覆いたくなるようなこともたくさんありました」と続けた。そのうえで草彅剛が「僕たちにいま、何ができるでしょうか?」と問いかけると、香取慎吾が「みんながみんな、すべての人にやさしくなれたら、きっと幸せな未来がやってくると、信じています」とまとめ、歌へと入った。

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 すでに国民的アイドルとなっていたSMAPが紅白という1年の締めくくりの舞台でなぜ、このようなメッセージを発したのか。そこには後述するような時代背景があった。

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「世界に一つだけの花」は、もともとSMAPが2002年7月にリリースしたアルバム『Drink! Smap!』の収録曲のひとつで、同アルバムを引っ提げてのコンサート・ツアーのほか、テレビでも披露され、ファンのあいだでは早くから名曲との呼び声が高かった。

 2002年11月にはカラオケ大手チェーンのレパートリーに収録され、また有線放送へのリクエスト数が急増し、街中でもじわじわと流れ始める。だが、人気に火をつけたのは、年が明けて2003年1月7日にスタートした草彅剛主演のドラマ『僕の生きる道』の主題歌に採用され、3月5日にシングルカットされたことが大きい。

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20分くらいで書き上げた歌詞だった

 この歌はシンガーソングライターの槇原敬之が提供したものだ。じつは槇原は前出のSMAPのアルバムのため、1週間かけて最初につくった曲をボツにされていた。そのため彼は、「もうできない。僕はSMAPの曲を書くチャンスを逃しちゃう」とすねてふて寝してしまう。だが、締め切りまであとわずかというなか、朝方にハッと目が覚め、急に書ける気がしてきた。本人はのちにこう語っている。

《みんなよく「降ってくる」って言いますよね。僕の場合は、サーフィンのように、後ろから波がワーってやってくる感じがしたんです。もう乗るか乗らないかしかない状態で、もし「やっぱり寝ちゃおう」って諦めたら、二度とその波には乗れない。「よし、じゃあ行くぞ」と心に決めて乗ったら、その後は紙芝居のように歌の場面が、パッ、パッて次々と浮かんできたんです。(中略)たとえば花屋の写真が見えて、「花屋の店先に並んだ……」と、僕は本当にその映像を書記していくだけでした。サーっと二十分くらいで歌詞を書き上げたんです。すごく特殊な時間で、その感覚は後にも先にもあのときしかありません》(『文藝春秋』2019年2月号)