「もともと特別なOnly one」をめぐる議論
他方で、この歌に対する反応のなかには、時の米大統領のブッシュがイラク攻撃を正当化する論理が、まるで「世界に一つだけの花」のようだという見方もあった。その理屈でいくと、ブッシュはこの歌と同じく、人と比べることを否定し、アメリカは「もともと特別なOnly one」と訴え、自分の都合だけで爆撃を続けている……ということになる(高橋秀実『結論はまた来週』角川書店 ※著者名の「高」ははしご高)。
ただ、この歌の「もともと特別なOnly one」との一節は、誰かが自分からそう主張しているというよりは(この曲に対する批判の多くはこの解釈にもとづいている)、別の誰かに向けて語りかけたものと捉えるのが自然ではないか。精神分析批評の篠原沙里はさらに踏み込んで、この一節は「僕は〈あなたにとって〉“もともと特別なOnly one”ですよね?」と、他者に確認を求める問いかけだと解釈している。篠原に言わせると、《他者へ向けての承認の問いで終わっていることが、この歌の最大のメッセージなのだ。そして、スマップ五人は『花』(引用者注:「世界に一つだけの花」)を歌いながら、この問いを互いに投げかけあっているのである》という(『SMAPウォッチング』作品社)。
SMAPの5人はこの曲を歌いながら互いに問いかけ合っているとの解釈は、自分と意見や立場の異なる他者にも聞く耳を持ち、調和をはかっていく努力の積み重ねこそが平和へとつながるという槇原の主張にも通じるだろう。とすれば、「世界に一つだけの花」は自己主張の歌ではけっしてなく、人々が自分はオンリーワンの存在ですかと問いかけ合うことで、お互いを認めようと歌ったものなのだ。
SMAP解散後、それぞれが選んだ道
SMAPの5人が2016年12月をもって解散するにあたり、自分たちの番組である『SMAP×SMAP』の最終回のラストで歌ったのも「世界に一つだけの花」だった。解散を決めるまでには、おそらくメンバーが対立することもあっただろう。しかし、最後にはそれぞれが互いの選んだ道を認め合ったとすれば、この歌ほど最後に歌うにふさわしいものはない。
解散後、中居と木村はジャニーズ事務所にとどまる一方、稲垣・草彅・香取は新事務所を立ち上げた。独立した3人は一時、芸能界で活動を続けられるのか危ぶまれたが、世論の支持を味方につけ、さまざまな場で再び花を開かせる。中居も2020年に独立するも、2022年に体調を崩し、年内いっぱいの活動休止を発表した。
中居のことは気がかりだが、どんなに仕事で頂点をきわめようとも、誰しも生きていればよいことも悪いことも色々とある。一旦花を咲かせても枯れてしまうことだってあるだろう。しかし、あの曲の歌詞からすれば、そのときこそ根をしっかり踏ん張って、次に花を咲かせる準備をするときなのかもしれない。SMAPのメンバーが再び集まることは当分ないのだろうが、しかし、それぞれの場所で新たに花を開かせた5人が、いつかまた一度でもいいからこの歌を一緒に歌う日が来ることを夢見る人は、筆者だけでなく世界にたくさんいるに違いない。