専門家から「うちでは対応できない」「無理だ」
このケースのように、職場でのハラスメント自死を遺族がはじめから疑っていても、労働災害を申請したり、訴訟を起こすためにはさらなるハードルが存在する。
「訴えたい」と思ってもどうすればいいかわからなかったと母、佳子さんは話す。
「そもそも労災については知らなかったですし、『過労死』という言葉も知りませんでした。当時はワタミでの過労自死が話題になっていましたが、それが『過労死』だとは思わず、ひどい会社だなというイメージでしかありませんでした。ただ、とにかく会社が悪いので裁判だと思いました」
そこでまず、綾奈さんの父が働く会社が連携している弁護士に相談することにした。しかし、その弁護士からは「うちでは対応できない」「無理」「証拠がない」と一蹴されたという。続いて、法律問題だと考えて法務省の人権相談窓口にも連絡した。しかし、窓口では「話はわかりましたが、こちらから具体的なアドバイスはできない」と告げられ、どうすることもできなかった。いのちの電話にも架電したが、相談が殺到しているからか、つながりすらしなかった。
綾奈さんが卒業した高校にも連絡を入れた。同じ高校から何人もこの会社に就職しており、なにか情報があるのではないかと思ったからだ。しかし高校側は個人情報を理由に、この会社に就職した元生徒についてはなにも言えないと告げられ、やはり有益な情報を得ることができなかった。
「これは労災にあたる」と判断してくれた弁護士との出会い
また、これは殺人だと考えて警察にも相談したが、証拠がないので無理だと拒否された。ただ、警察からは法テラスという法律相談に対応する窓口があると告げられたため、藁にもすがる気持ちで法テラスに電話した。一度は弁護士に拒絶されたものの、とにかくどこか対応してくれる人をなんとかみつけようという思いだった。
そして、ついに法テラスからは、労働問題であればということで、多くの過労死事件を手がける過労死弁護団全国連絡会議の水野幹男弁護士を紹介される。翌日、水野弁護士の事務所を訪れて状況を説明すると、水野弁護士からは「これは労災にあたる」と言われ、ここではじめて労災について知ることになる。弁護士のアドバイスにしたがって、まずは労災を申請し、次に会社に責任を追及する民事訴訟を提起することを決めた。
またちょうど同じ頃、母、佳子さんはインターネットの掲示板で自死遺族が集まるサイトを偶然見つけた。そこには労働問題が原因で家族を亡くした遺族向けのグループがあった。そのグループに自身の経験を投稿すると、全国過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さんに相談するようアドバイスされた。寺西さんにコンタクトをとり、過労死遺族の当事者団体ともつながりをもつことができた。