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「頑張ろうと思っても体がついてきません」「もう直さないでいい」…過疎地での災害復旧を妨げる“超高齢化社会のリアル”

宮崎県、知られざる台風被害2

2022/12/30

genre : ライフ, 社会

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 こうして土砂に埋もれた道路や庭はかなりあったようだが、住民が自力で応急復旧した地区が多かった。65歳以上の高齢化率が45.2%(2022年10月1日時点)にもなる町だ。高齢者ばかりの集落もある。だが、重機を持っている農家もあるので、集落で協力して作業をした。このため、ボランティアの力も借りないで済ませた。被害の大きさが外部に伝わっていないのは、そのせいもあるだろう。

 しかし、本格的な復旧工事となるとそうはいかない。

美しい棚田。こうした地形が被害を深刻化させた(高千穂町)©葉上太郎

膨大な災害復旧工事は誰が引き受け、担当するのか?

 自力で直せる軽微な被災箇所や、町の単独事業で修復できる場所だけではないからだ。国の補助が必要な工事には測量、査定、設計、予算化などの手続きが必要で、少なくとも来春以降の着工になる。「工事業者に来てもらおうにも、この辺りの自治体はどこも同じように被災しているので、業者は地元だけで精一杯です。職員も少ないので、膨大な災害復旧工事の発注は一気にできません。復旧にはかなり時間が掛かるのではないかと見られます」と指摘する職員もいる。

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 そうした結果、何が起きるか。

 農地の復旧には自費負担も生じる。「いつ作物を作れるようになるか分からないし、お金も必要なら、このまま直さないでおこうか」と考える高齢の農家が増えかねない状態なのだという。

農地の土手が道路に向かって崩落(高千穂町)©葉上太郎

 町民課の岡田さんは、自分の畑以外にも、近所の高齢者から借りた畑で野菜を作ってきた。だが、借りた畑が台風で被災してしまった。「所有者は『もう直さないでいい』という意向です。放置すれば草ぼうぼうになってしまうので、草刈りだけは私が暇な時にボランティアで続けようかと思っています」と話す。

 こうした農家が増えれば、町内の農地が一気に荒れかねず、町の姿が大きく変わってしまうだろう。

 神話の里として知られる隣の高千穂町は、さらに深刻だ。これまでに判明しているだけで、道路・河川の被災が577カ所、田畑などの農地が約700カ所、水路・農道・揚水機などの農業用施設が約250カ所。これらの箇所数を合計すると、五ヶ瀬町の2倍ほどになる。

 同町でも人的な被害はなかったが、牛が犠牲になった。

 高千穂は黒毛和牛の産地だ。母牛に子牛を生ませて市場で売る「繁殖農家」が多く、そのうちの1軒の牛舎が土砂崩れに呑まれた。住家はすぐ近くにあり、たまたま土砂が崩れた方向が牛舎だった。