何でもかんでもアウトにはなってほしくない

 さまざまな"疑惑"に白黒をつけてきた同研究所だが、山崎代表の心境は複雑だという。

山崎代表 撮影/宮崎慎之輔 ©️文藝春秋

「旦那さんによく話を聞くと、この動画は奥さんの髪型などから結婚前に撮影された可能性が高いそうです。旦那さんが、今は浮気もせずに大変な子育てを頑張っていると言うので、『あなただって結婚前に言えないことはあるでしょう?』とアドバイスしました。何でもかんでもアウトにはなってほしくないですね…。

 また、『老け専ビデオ』を見た60代の夫から、『妻に似ている』と依頼があったこともあります。確かに似ていたんですが、鑑定の結果は本人ではなく白。男性は並行して離婚調停を進めていたので、奥さんの不貞行為を理由に、裁判を有利に進めようと考えたところ、別人だと分かり困っていた。むしろアダルト動画を見ていることがばれてしまったなんてこともありましたね。この手の依頼は無くなりません。

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AIの能力向上により、格段に精度もアップ

 人定以外でも、警察から小学生が被害者の児童ポルノが持ち込まれて、これが実際に挿入されているかいないのか鑑定してほしい、という依頼もありました…。仕事とはいえ映像を見るのは辛かったです」

 こうした動画解析は犯罪捜査でも非常に重要だ。街中の防犯カメラが増えた昨今だが、古い設置カメラは特に路上から高い位置に設置されていることが多いため、画像が粗く人の特定が難しいケースも多いという。

法科学鑑定研究所は画像情報を使った画像認識AIプログラムを開発した(HPより)

「粗い画像は、従来であれば専門家が手作業で処理をしていました。しかし、あまりにも重労働ですし時間がかかったにもかかわらず、結果、分からないということもよくあるので、海外の企業に高性能の動画分析AIの開発を外注しているところです。完成が本当に楽しみで、警察や入管に売り込みたいなと思っています。AIの能力は格段に上がっており、すごい精度のものができるんですよ」

 こう目を輝かせる山崎代表。法科学鑑定研究所ではさまざまな科学鑑定を実施しているが、警察が「事件性はない」と判断したものをひっくり返した経験もあるという。(#2へ続く)

次の記事に続く 「包丁で腹を刺し、チェーンソーを使って首の動脈を…」民間鑑定会社が執念の調査で覆した「自殺の証拠」 真犯人と疑われた男の壮絶な末路とは?