「お前のDNAがたばこの吸い殻から出ているんや。○月×日△時、あそこでお前は何をしていたんや」
取り調べ室で強面の警察官が、DNA鑑定の結果を武器に黙秘する容疑者にすごみを利かせる。観念した容疑者は、犯行を認めて自白――。現在の捜査では、科学鑑定の精度が最大限に高まり、客観証拠を突きつけられると犯罪者側も言い逃れができなくなるケースが大多数である。
人と人の間で起こるトラブルはどんなものでも対応できる
実は、このような科学鑑定を捜査当局ではなく、民間で行う業者が存在する。例えば、民事訴訟などで相手側の不正行為を科学的に立証したい場合、鑑定を警察が行ってくれることはない。そのため、こうした依頼に応えるのが民間鑑定機関である。海外では多く存在するが、日本ではそう数は多くない。
「うちは、唾液、精液などのDNA鑑定から筆跡、画像解析、交通事故の分析まで、総合的に鑑定できる日本で唯一とも言える民間企業です。DNA鑑定だけでも最近は1年で700件の依頼があります。民事裁判で使用されるものが最も多いですが、警察など捜査当局が手に負えなかったり諦めた案件が持ち込まれることもある。裁判を考えていなくても、まずは『浮気を突き止めたい』という男女からの依頼も多いですね。鑑定と聞くと最初に思い浮かぶのはDNA鑑定かと思いますが、人と人の間で起こるトラブルはさまざまで、どんなものでも対応できるという自負はあります」
こう話すのは、法科学鑑定研究所(東京都小金井市)の山崎昭代表だ。確かに同研究所のホームページに記載されている鑑定項目は多岐にわたる。〈DNA、精液、毛髪、筆跡、指紋、火災、交通事故、画像解析、薬毒物分析…〉
捜査当局も信頼している理由とは
「十数人の社員に加えて、液体の成分や交通事故鑑定など分野によっては20人ほどいる嘱託の専門家集団に外注して、顧客のニーズに応えられるようにしています。うちの売りは『真実を追求する』ということ。業者によっては、顧客にとって"都合の良い"鑑定書を書くケースがある。よく民事裁判では、争っている双方それぞれが全く逆の結果の鑑定書を持っていることもあるのですが、それはどちらかがエセ鑑定ということです。業者の倫理観が欠如していればいくらでも鑑定書を"作る"ことができてしまいますが、私たちはクライアントの意向にかかわらず、科学的に客観的なものしか出しません。捜査当局からの依頼で彼らにとって不都合な結果が出たとしても、そのまま報告します。でも、そういったスタンスでやってきたので当局も信頼してくれているんです」(山崎代表)