竜王戦七番勝負第5局 変化手順の驚愕の1手
第4局は藤井が快勝で、追い込まれた広瀬は第3局と同じく相掛かりにするが、違う仕掛けを見せた。
だが藤井は正確な対応をして、難解な終盤戦に。藤井は飛車金両方に当てて角を打ち、飛車を取って打ち込んだが、ここで広瀬が自陣に桂を打って受けたのが読みの入った1手。この後に藤井に誤算があり、広瀬がどんどん差を広げて寄せ切った。実は角で飛車ではなく金を取れば勝機があったが、それは超難解な手順で、感想戦でも俎上に上がらなかった。
「角を切って行く変化で、最後△1六歩と端歩をついて攻めがつながるのが衝撃でした。見たことのない手筋で、今回の番勝負で一番驚いたことです」と藤井は語る。その手を語るとき、藤井は新しい手を見つけたという喜びの表情だった。
竜王戦七番勝負第6局 人間離れしていた寄せ
ついに、藤井の「第6局」が初めて実現した。広瀬は今回は従順に藤井の角換わりについていく。だがバランス型から金が飛車側にスライドする工夫を見せる。そう、シリーズを通じて広瀬が後手番で用意していた対策が「金のポジションを変える」ことだったのだ。
第2局が3三金型、第4局が6三金、第6局が7二金と同形のミラーマッチを避け、藤井の公式戦での経験が浅い形にしたのだ。藤井は形勢が苦しいと読み、1日目の夜に決断をする。
そして2日目、飛車取りに銀を打ったのに対し、横に逃げずに上に逃げる意表の手を指す。これはもし相手が最善手で対応したら、千日手にしようというものだ。もし相手が最善手を指さなかったら……。
対して広瀬は飛車取りにさらに銀を打ってしまった。代えて香を打っていれば引き分けだった。
藤井は成銀を取り返さずに角を打つ。これが自陣への飛車打ちを防ぎ、相手陣のど真ん中を狙い、さらにサイドに展開することができる角だ。広瀬は当初、この角打なら勝てると読んだ。成銀で金を取ることができるのだから当然だ。だが、読む内にこの手の凄さに気づいたが、時すでに遅かった。
終盤の藤井の寄せは人間離れしていた。角を切り、香を取らせ、金も渡しと、たくさん駒を渡して、最後は詰めろではない手で相手にターンを渡す。しかし、「角か金が入ると広瀬玉は詰む」というしばりのため、詰めろを掛けることができない。