時間の使い方もうまくなった
この将棋について、ABEMAで解説を務めた長岡裕也六段にうかがった。
「寄せ方がすごいんですよね。たくさん駒を渡して最後に詰めろをかけないなんて。しかもそれ以外の手だと大変だったんです。桂を使うと合い駒がないとか制限も多くて。現地で解説していた佐々木勇気七段も『この寄せ方は……』と絶句していましたよね。
ただ、もう藤井竜王のすごい手に視聴者が慣れてしまっていて、この手順がどんなにすごいのか説明しても、いつものことかと思われてしまって(笑)。藤井竜王の将棋の解説は難しいですね」
しかし、1日目を終えた段階で千日手にするとは何というクレバーな判断だろう。間違いなくライバルでもあり6年近いスパーリングパートナーでもある永瀬拓矢王座の影響だろう。時間の使い方もまたうまくなった。休憩直後とか、2日目朝とか、間違えやすい時間に難題を突きつけている。決してわざとではないが、時間の使い方すらベテランの域に達している。
広瀬は、後日ブログで「第3局を落としてしまったことはあまりにも痛かったです。結果的にこの成績がもろに影響してしまいましたが、それも含めて今の実力なので仕方なかったと思います」と述べている。
6局すべてが「秘策」だった
第1局 先手 3年ぶり
第2局 後手 初採用
第3局 先手 3年ぶり
第4局 後手 4年9ヶ月ぶり
第5局 先手 第3局と同じ
第6局 後手 初採用
これは広瀬が採用した戦法が、以前いつ採用したかという一覧だ。第1局の先手での飛車先保留腰掛け銀が2019年3月以来の採用であることは以前述べたが、その後の戦法もすべて「秘策」だった。
それは藤井側から見ても分かる。6局すべて初なのだ。端などが、少し形が違うのは経験しているが、まったく同じ形はない。藤井は事前研究はしっかりしているし、参考棋譜も調べている。だが公式戦での経験がないことは大きい。それは第1~3局まですべて中盤で広瀬がリードしたことからも分かる。