この天板という言葉、対語的にできたもので、「まな板」という言葉が先行する(編注:まな板は、じゃんけんで勝った客が舞台に上がり、踊り子と交わるショー)。当局より規制がかかってマイナーチェンジし、疑似的な天板が普及していったということである。〈白黒ショー〉で耐性のあったマリアだったらできるとマネージャーは踏んだのだろう。過激さで客も付いていく(編注:白黒ショーは、舞台上の男女がさまざまな体位で行為を見せる過激な見世物)。
離婚直前に新たな借金が
やがて、マネージャーはマリアを別の小屋へ移籍させる。関東のとある劇場だった。A劇場としておく。彼女はあきれたように笑いながら言う。
「売られたのよ」
マネージャーはA劇場に借金があった。手持ちの駒を渡すように、マリアはA劇場所属の「タレント」として、彼の借金を返し切るまで転籍させられたのだった。
マリアのようにマネージャーが「バンス(ギャラの前借) したり、抜いたりして、借金を負っている子」はその頃何人もまわりにいた。マネージャーの中には、「何人の女の子を持っているか(自分の配下に置いているか)、競うような、誇るような雰囲気があった」ともいう。
実は、マリアも新たな借金を負っていた。離婚直前に切り盛りしていた札幌の喫茶店を解体するから、その費用を払えと夫の田村(仮名)が連絡をよこしていたのだった。私は聞いていて、もう返す言葉も出なかったが、マリアは争うのを諦め、それも受け入れた。
ストリップにかつて存在した暗部
そんな折、マリアにさらなる要求が突きつけられる。
「今度は『個室』やれってね。お客は1回3000円」
劇場脇に設けられた小部屋で、客と行為をするのだ。生板さえ禁じられたこの時期、もちろん完全なご法度のこと。もはやショーではない。マリアは、借金を早く返すためと割り切って、応じた。彼女の取り分は、客1人につき、たったの1500円。ここまでのくだり、戦前ではなく90年代後半の話である。こうした部屋を設けている小屋はいくつかあり、中部地方には個室以外に風呂まで設けている小屋もあった。
「個室だけ、本当にイヤだったな。お客ともよくケンカしたし。いつも泣いてたよ」
涙を流すマリアの個室の前には、それでも行列ができてしまう。踊り子として1ステージ22、 3分を1日4回踊り、合間に食事する以外の時間は、夜までかけて、個室に並ぶ全員を終わらせることに費やされる。余計な時間を食うことを求めてくる客には、食ってかかってケンカになった。「個室」の人気は沸騰していく。マリアの並びの部屋には、コロンビア人など外国人女性も多かった。